借地権は相続の対象になります。借地権は、土地を借りて使用する権利ですので、相続財産として他の財産と同様に相続人に承継されます。
ただし、借地権を相続する場合や遺贈を受ける場合には、地主との契約関係に関する注意点がいくつかあります。
相続の場合、借地権は法定相続分に基づいて自動的に相続人に承継され、地主との契約はそのまま継続されるため、地主の承諾は不要です、また、相続人が地主に対して承諾料を支払う義務もありません。
しかし、相続によって相続人が権利を承継したことは、地主に通知するとともに、借地契約の内容を改めて確認することが望ましいでしょう。
また、相続人の中の1人が借地権を承継する場合には、地主にその旨を通知して借地契約の更新を行うべきでしょう。
借地権を相続した後に売却する場合には地主の承諾が必要です。
一般に、賃借人が賃借物を譲渡又は転貸するには賃貸人の承諾が必要だからです(民法612条1項)。
さらに、地主の承諾を得る際に承諾料が必要になる場合があります。
地主が承諾しない場合には、地方裁判所に申立てを行い、裁判所の許可を得ることができれば借地権を売却することが可能です(借地借家法19条1項)。
遺贈の場合、相続とは異なり、譲渡の一種とみなされます。
そのため、前期の借地権の売却の場合と同様、地主の承諾が必要で、承諾料が必要となる場合があります。
地主が承諾しない場合は、前期と同様に、地方裁判所の許可を得て売却することも可能です。
このように、借地権を遺贈する場合には、後に地主の承諾等の手続きが必要になりますので、遺言書を作成する前に、地主との協議を行い、遺贈の可否や承諾料について確認しておくことをお勧めいたします。
借地権は相続の対象であり、相続する場合には地主の承諾や承諾料は不要です。
これに対し、相続した借地権を売却する場合や借地権を遺贈する場合には地主の承諾が必要となりますし、承諾料が必要となる場合もありますので注意が必要です。
被相続人Hの相続人は被相続人の子であるA及びBの2名であり、CはAの妻というケースで、Hは財産全部をAに相続させる旨の遺言をしていました。
Hの死亡後、BがAに対して遺留分侵害額請求権を行使したところ、CはBに対し、特別寄与料(民法1050条)のうちBが負担すべき相当額の支払いを求めました。
裁判所:最高裁判所第一小法廷
裁判年月日:令和5年10月26日
民法1050条5項によると、特別寄与料が認められる場合で、相続人が数人ある場合には、各相続人は法定相続分又は指定相続分に応じた額を負担する旨規定しています。
しかしながら、相続人が遺留分侵害額請求権を行使した場合における各相続人の負担については明文の規定がありません。
そのため、遺留分侵害額請求を行った相続人は、遺留分割合(本件では4分の1)で特別寄与料を負担するのか(Cの主張)、指定相続分(本件では0)に従って負担することになるのか(Bの主張。本件では負担しないということになる。)が争点になりました。
結論として、最高裁判所はCの申立を認めませんでした(一審及び二審も同じ結論)。
その理由としては、民法1050条5項の趣旨として、「民法1050条5項は、相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について、相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等(引用者注:法定相続分又は指定相続分)によることとしたものと解される」としたうえで、「このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではないというべきである。」と述べています。
相続案件を扱っていると、葬儀費用に関する不当利得の案件(相談)がときどきあります。
実は、葬儀費用に関する不当利得の案件といっても全て同じ形ではなく、大きく2つの類型に分かれます。
【類型①】
相続人Aが喪主として自分のお金で葬儀費用を支払い、他の相続人に対して金銭を請求する類型
【類型②】
相続人Aが喪主として被相続人名義の預貯金から出金して葬儀費用を支払い、他の相続人が相続人Aに対して金銭を請求する類型
類型①の場合、相続人Aが喪主として葬儀の規模や予算を決めて主催したのであるし、それを他の相続人に請求するのはいかがなものか、という価値判断が働きます。
この請求を認めるということは、裁判所が公権力を発動して強制的に実現することになりますが、歴史的にも葬儀費用は喪主が負担してきたのであるから、裁判所が関与してまで相続人の平等を実現するべきか、というと躊躇するのではないでしょうか。
類型②の場合、この請求を認めると、遺産の中から葬儀費用を捻出することは間違ったことであり、葬儀費用は法律的に喪主が負担するべきだという明確なメッセージを裁判所として発することになります(この場合も、裁判所が公権力を発動して強制的に実現することになります)。
しかし、憲法が改正されて民法も改正されて家督相続がなくなり、子どもは平等に遺産を相続することになったにもかかわらず、葬儀費用の負担は喪主が負担すべきだという法律的な根拠はなかなか見当たりません。
そう考えると、こちらの場合も、裁判所が請求を認めることには躊躇を感じてしまいます。
このように見てくると、葬儀費用の負担については、「不当利得返還」という形で裁判所が公権力を発動して解決すべきものではないのかも知れません(コラム【葬儀費用は誰が負担するのか】もご参照ください)。
相続人全員が相続放棄した場合、相続財産の処理は通常の相続手続きとは異なる流れをたどります。
まず、相続放棄とは、相続人が被相続人の財産(プラスの財産とマイナスの財産の両方)を一切受け取らない意思表示を裁判所に対して行うことを指します。
これにより、その相続人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます(民法939条)。
相続放棄を行うと、次順位の相続人(例えば、子が放棄した場合は親、親が放棄した場合は兄弟姉妹など)に相続権が移りますが、全ての相続人が相続放棄を行った場合、相続財産は「相続人のない財産」となり、法律的には「相続財産法人」が成立して(民951条)、相続財産法人に相続財産及び相続債務が帰属します。
もっとも、法人といっても、相続財産と相続債務のみで構成される概念上のものであり、株主などの構成員は存在しません。
相続人が存在しない場合、上記のとおり、相続財産や相続債務は概念上の「相続財産法人」に帰属することになります。
この「相続財産法人」に対して、相続債権者が金銭の支払いを請求したい場合には、家庭裁判所に対して「相続財産清算人」の選任を申し立てます。
そして、家庭裁判所によって選任された相続財産清算人は、相続財産を換価し、相続債務を整理し、必要な清算を行います。
上記のように、相続債権者等の利害関係人が家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立てると、相続財産清算人が選任されますが、誰も選任申立を行わなければ相続財産清算人は選任されません。
その場合、概念上の「相続財産法人」が相続財産を保有したままの状態が続きます。
相続財産清算人が選任された場合で、遺産の整理が進められた後、相続人がいない場合でも、特定の人が財産を受け取れる可能性があります。いわゆる「特別縁故者」です(民法958条の2)。
特別縁故者とは、被相続人と生前に特別な関係を持っていた者(例えば長年世話をしていた人や事実上の配偶者など)を指します(特別縁故者として認められる要件については、コラム【特別縁故者の判断基準】参照)。
特別縁故者は、家庭裁判所に対して財産の分配を求めることができ、認められれば相続財産の全部又は一部を受け取ることが可能です。
相続放棄をした相続人であっても、相続財産に関して一定の保存義務を負います(民法940条)。
民法940条によると「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」とされています(相続放棄後の保存義務の詳細については、コラム【相続放棄後の管理責任(相続放棄後に建物が倒壊したら責任が発生する?)】参照)。
全ての相続人が相続放棄をすると、遺産は概念上の相続財産法人に帰属します。
相続財産法人に対して金銭請求等を行いたい場合は、家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立てます。相続財産清算人が選任されると、債務の整理や債権者への弁済が行われます。
また、場合によっては、特別縁故者が相続財産の全部又は一部を受け取ることがあります。
なお、相続放棄後も一定の条件下では相続財産の保存義務が発生します。
相続手続きにおいて、被相続人の遺産の内容を正確に把握することはきわめて重要です。
遺産のうち代表的なものは不動産と金融資産です。
以下では、不動産と金融資産に分けて調査方法について説明します。
不動産の調査では、まず法務局での登記事項証明書の取得が基本です。
登記事項証明書には、土地や建物の面積、所有者の名義変更履歴、抵当権の有無などが記載されています。この証明書を取得することで、相続対象の不動産を特定し、権利関係を確認することが可能です。
また、市区町村役場での名寄帳(固定資産税課税台帳)の確認も重要です。
名寄帳は、特定の市町村内にある不動産を所有者ごとに網羅的に記録しているため、登記されていない土地や建物も含めて被相続人の不動産を把握できます。
ただし、この名寄帳には非課税の不動産は記載されていません。非課税の不動産というのは、例えば自宅前の公衆用道路(私道)です。自宅前の道路が私道である可能性がある場合には注意が必要です。
さらに、不動産の固定資産評価証明書を取得することで、遺産の評価額の目安が判明します。固定資産評価証明書も市区町村役場で取得できます。
金融資産の調査は、被相続人が生前に利用していた銀行口座や証券口座の確認から始めます。
まず、通帳、キャッシュカード等を調査し、どの金融機関に預貯金の口座があるかを確認します。
預貯金口座の存在する金融機関に対して残高証明書を請求すれば預貯金の残高を知ることができます。また、取引口座の取引履歴を請求すれば、過去の取引の経緯を知ることが可能です。
次に、遺品の中に証券会社からの郵送物等があると、当該証券会社に証券口座が存在する可能性が高いといえます。
当該証券会社に対して、残高証明書の発行請求を行い、保有銘柄や株数を確認します。
なお、取引をしていた証券会社が分からない場合は、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に対して登録済加入者情報の開示請求を行うことで、被相続人が口座を開設していた証券会社、信託銀行等の名称等の情報が確認できます。
もっとも、登録済加入者情報の開示では、株式等の銘柄名、取引履歴、保有残高等は開示されませんので、各証券会社等に対してそれらの開示請求を行う必要があります。
遺産の調査方法として、不動産については、登記事項証明書、名寄帳、固定資産評価証明書等の取得が基本になります。
金融資産については、通帳や金融機関からの郵便物等を手がかりにして口座の存在する金融機関を特定し、残高証明書等を請求します。
証券会社が分からない場合には、「ほふり」に対して登録済加入者情報の開示請求を行うという手段があります。
遺産分割において相続人の中に未成年者が含まれている場合、特別な配慮が必要です。特に、利益相反の問題や法定代理人の役割、特別代理人の選任などに留意しなければなりません。以下に、そのポイントを説明します。
未成年者は、単独で法律行為を行うことができません。したがって、通常、契約締結などの法律行為は親権者が法定代理人となって未成年者の権利を代わりに行使します。
しかし、遺産分割協議や調停において、相続人の中に未成年者が含まれており、その者の親権者も同時に相続人である場合には利益相反の問題が発生します。
利益相反とは、親権者自身が相続人としての利益を主張する一方で、未成年者の権利行使も代理するため、双方の利益が衝突する状況です。
たとえば、親権者である母親が未成年の子とともに相続人として遺産分割協議に参加する場合、母親は自身の相続分を増やせば自分の利益になりますが、一方で、子供の相続分も守る必要があります。
このような状況では、親が子供の代理人として公平な判断をすることが難しくなります。
上記のような利益相反の問題が生じる場合、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を請求する必要があります。
特別代理人は、未成年者の利益を守るために選任されるもので、親権者から独立した立場で遺産分割協議や調停に参加します。
これにより、未成年者が不利な条件で遺産分割に同意するリスクが軽減されます。
特別代理人の選任請求は、相続人の親権者又は利害関係人が家庭裁判所に対して行います。申請を受けた家庭裁判所は適任と判断した人物を特別代理人に選任します。
特別代理人は、遺産分割協議の内容を確認し、未成年者にとって不利な条件が含まれていないかを慎重に検討することになります。
遺産分割調停においても、未成年者がいる場合には同様に特別代理人が必要となることがあります。
調停では、家庭裁判所の調停委員が関与し、相続人同士の話し合いを進めますが、未成年者の利益が損なわれないよう、特別代理人がその意見を反映させます。
調停が成立しない場合は、審判に移行することになりますが、その際も特別代理人が未成年者の利益を守ります。
未成年者が相続人として遺産分割に関与する場合、利益相反の問題や特別代理人の選任が重要なポイントとなります。利益相反のため親権者が未成年者を代理できない場合には、家庭裁判所で特別代理人を選任し、未成年者の権利の保護を図ります。
近年、ペットを家族の一員として愛する人々が増え、ペットの相続に関する関心も高まっています。「自分が亡くなった後、大切なペットをどうやって守るか?」というのは、多くのペットオーナーにとって重大な問題です。
しかし、日本では動物を法律上、物(動産)として扱っており、ペットそのものに直接遺産を遺すことはできません。
では、どのようにすればペットの将来を守ることができるのでしょうか?この記事では、ペットに遺産を遺すための方法や、法的な枠組みを詳しく解説します。
まず、日本の法律上、ペットは人間と同様の相続人にはなり得ません。民法において動物は「物」として扱われており、ペットそのものに対して遺産を相続させることはできません。このため、遺言書に「愛犬に100万円を相続させる」といった内容を書いても、その部分は無効とされてしまいます。
では、ペットのために財産を遺すことがまったく不可能かというと、そうではありません。
近年注目を集めているのが「ペット信託」という仕組みです(「家族信託」の一種です)。これは、信頼できる人物や団体に財産を託し、その財産を使ってペットの世話や生活費をまかなうための制度です。
あらかじめ、あなたが選んだ信託受託者(家族や友人、あるいはペット専門の団体など)とペット信託の契約をしておくことで、あなたが亡くなった後に、その人にペットと一定の財産を託すことができます。
信託受託者は、その財産をペットのために使い、ペットが生涯にわたって快適な生活を送れるようにすることができます。
もう一つの方法は、遺言書を利用してペットの世話を依頼することです。
具体的には、遺言書にペットの世話を頼む相続人や友人を指定し、その人にペットの世話を委ねる形で財産を遺贈します。
例えば、「私が死亡した場合、〇〇さんにペット(愛犬○○:犬種○○)及び500万円を遺贈する。○○さんは、その負担として愛犬○○を大切に飼育するものとする。」という形(負担付遺贈)で遺言書を作成します。
この方法において重要なのは、ペットの世話を頼む人が信頼できる人物であることです。
また、財産の使い道やペットの世話に関する具体的な指示を遺言書(付言事項として)に明記することで、ペットが適切に保護される可能性が高まります。
ペットの相続に関する悩みを解決する一つの方法として、ペット専門の施設や団体に依頼するという選択肢もあります。
日本では、ペットの終生飼養を約束する施設が存在し、一定の寄付金を支払うことで、あなたが亡くなった後もペットが安心して暮らせるようサポートしてくれます。こうした施設を利用することで、家族や友人に負担をかけずに、ペットの世話を継続できる点が魅力です。
ペットは大切な家族の一員であり、その将来を守りたいという願いは当然のものです。しかし、法律上ペット自体に遺産を遺すことはできません。事前に適切な手続きを行い、大切なペットが安心して暮らせるよう準備を進めましょう。
インターネットやデジタル技術が普及する中、私たちの財産や日常生活の多くがオンライン上に存在するようになりました。
それらは亡くなった後どのように扱われるのでしょうか?デジタル遺産に関する法的整備はまだ発展途上ですが、この記事では、オンライン資産やSNSアカウントの取り扱い方、それに伴う問題点を解説します。
デジタル遺産について法律上の定義はありませんが、一般には、狭義の「デジタル遺産」と、「デジタル遺品」に区別されます。
狭義の「デジタル遺産」とは、被相続人が生前にデジタル形式で保管していたものうち、経済的価値を持つものを指します。
これには、ネット銀行の口座や、暗号資産(仮想通貨)、電子マネー、クレジットカードのポイントやマイレージなどが含まれます。
これらは経済的価値を有しており、相続の対象となります。
一方、「デジタル遺品」とは、個人的な写真、動画、メール、SNSアカウントなど、経済的な価値はないものの、被相続人の思い出やプライバシーに関わるデータを指します。
これらは遺族が管理や処分に困ることが多く、また、財産的側面よりも感情的な要素が強いので、取り扱い方に慎重さが求められます。
デジタル遺産の相続手続は、一般に次の手順で進めます。
・デジタル遺産の特定
まず、被相続人が保有していたデジタル遺産(ネット銀行口座、暗号資産、電子マネー、ブログ収益など)を確認します。生前にリストを作成してもらうことが望ましいですが、取引履歴や端末内のアプリ、メール等からも探すことができます。
・アクセス情報の取得
デジタル遺産はパスワードやセキュリティによって保護されています。被相続人の遺品からパスワードを確認するか、必要に応じて弁護士や専門家に依頼し、アカウントにアクセスできるように手配します。
・サービス提供者への連絡
ネットバンクや暗号資産取引所など、デジタル遺産のサービス提供者に被相続人が亡くなったことを伝え、相続手続きに関する指示を仰ぎます。サービスごとに必要な書類や手続きが異なるため、適切に対応します。
・遺産の評価と分配
デジタル遺産の価値を査定し、遺産分割協議書に基づいて相続人の間で分配します。暗号資産や投資アカウントの場合は、その時点での市場価値に基づく評価が必要です。
・税務手続き
デジタル遺産の中でも、経済的価値を持つ資産は相続税の対象となるため税務申告を行います。暗号資産やネット収益は、相続税に加えて譲渡時には所得税が課される場合もあります。
SNSアカウントについては、プラットフォームごとに異なる取り扱いが行われます。例えばFacebookでは、ユーザーが亡くなったことが確認されると、アカウントは「追悼アカウント」として設定されます。X(旧Twitter)では遺族が申請すればアカウントの削除が可能ですが、追悼アカウントのような機能は提供されていません。
このように、SNSアカウントの取り扱いはサービスによって異なるため、事前に各サービスのポリシーを確認しておくことが重要です。
デジタル遺産の相続をスムーズに進めるためには、生前に以下のような対策を取っておくことが有効です。
・資産リストの作成
ネット銀行口座、暗号資産、SNSアカウントなど、所有するすべてのデジタル資産をリストアップし、アクセスに必要な情報(IDやパスワード)をまとめます。
・パスワード管理ツールの活用
信頼性の高いパスワード管理ツールを利用し、すべてのアカウントのパスワードを安全に保管します。このツールのアクセス方法も家族に伝えておくとよいでしょう。
・遺言書にデジタル遺産を明記
デジタル遺産の相続に関する希望を遺言書に記載し、特定の資産を誰に相続させるか明示しておきます。相続人が困らないように具体的な指示を残します。
デジタル遺産は、現代において無視できない重要な財産です。オンライン資産やSNSアカウントがどのように扱われるかを理解し、遺言書や資産リストの作成などを行って円滑に相続手続が行われるようにしておきましょう。
相続放棄の期間について、民法は「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」相続放棄をしなければならないと規定しています(民法915条1項。この期間のことを「熟慮期間」といいます)。
それでは「相続の開始」とはいつのことでしょうか?
民法882条に「相続は、死亡によって開始する。」との規定がありますので「相続の開始」とは被相続人が死亡した時点のことを意味します。
つまり「相続の開始があったことを知った時」とは「被相続人が死亡したことを知った時」ということになります。
したがって、被相続人が死亡したことを知った時点が熟慮期間の起算点となります。
被相続人の死亡を知ったのが被相続人の死亡から1年後であれば、その時点が熟慮期間の起算点となります。
「自己のために」というのは、主に後順位の相続人を意識した文言です。
例えば、被相続人に子どもがいる場合、子どもは第一順位の相続人です。子どもが被相続人の死亡を知った場合、自分が相続人になるわけですから「自己のために」相続の開始があったことを知ったことになります。
仮に、子ども全員(第一順位の相続人全員)が相続放棄を行った場合、第二順位の相続人(例えば母親)がいる場合、子ども全員が相続放棄を行ったことにより母親は相続人になるので、母親が子ども全員が相続放棄を行ったことを知れば「自己のために」相続の開始があったことを知ったことになります。
最高裁昭和59年4月27日判決は、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたために3か月以内に相続放棄をしなかった場合で、そのように信じたことについて相当な理由があるときには、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算するべきだと判示して、熟慮期間の起算点の繰り下げを認めました。
上記最高裁判決は「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた」場合について判断しています。
したがって「被相続人に相続財産があることを知っていた場合」には射程が及んでいないと考えられます。
それでは「被相続人に相続財産があることを知っていた場合」には、一切熟慮期間の起算点の繰り下げが認められないのでしょうか。
この点に関して、下級審の裁判例は分かれています。
例えば、熟慮期間の起算点の繰り下げを認めた裁判例として、東京高裁平成19年8月10日決定があります。
同決定では、相続人が、被相続人所有の土地があることを知っていたが、当該土地にほとんど財産的価値がなく、一方被相続人に負債はないと信じていたというケースで、被相続人の死亡から約半年後にされた相続放棄の受理を適法と認めました。
また、熟慮期間の起算点の繰り下げを認めなかった裁判例として、東京高裁平成14年1月16日決定があります。
同決定では、被相続人が死亡した直後、被相続人が所有していた不動産の存在を認識したうえで他の相続人全員と協議し、これを長男である相続人に単独取得させる旨を合意したケースで、相続人らは被相続人に相続すべき遺産があることを具体的に認識していたとして、熟慮期間の起算点の繰り下げを認めませんでした。
相続放棄は、原則として、被相続人が死亡したことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に行わなければなりません。
もっとも、後順位の相続人は先順位の相続人全員が相続放棄を行ったことを知った時が熟慮期間の起算点となります。
最高裁の判例では「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた」場合に熟慮期間の起算点の繰り下げを認めたものがあります。
「被相続人に相続財産があることを知っていた場合」に熟慮期間の起算点の繰り下げが認められるか否かについて、下級審の裁判例は分かれています。
孫に遺産を「相続」させることはできるのでしょうか?
遺産を「相続」できる人は法律で決まっており、民法で定められた「法定相続人」に限られます。
法律で決まっている「法定相続人」には、第一順位から第三順位まであります。
第一順位:子ども(民法887条1項)
第二順位:親、祖父母(民法889条1項1号)
第三順位:兄弟姉妹(民法889条1項2号)
上記のとおり、「孫」は法定相続人に含まれていません。もっとも、代襲相続が起きる場合は孫が相続人になることがあります。
したがって、代襲相続が起きる場合以外には「孫」は法定相続人ではないため、原則的に孫に対して遺産を「相続」させることはできません。
養子縁組を行えば、孫に対して遺産を「相続」させることができます。
養子縁組を行うと、養子と養親との間には血族間と同一の親族関係を生じるので、法律上、実子と同じ扱いになるからです。
もっとも、養子縁組を行うことで「子」の数が増える場合、他の子どもの相続分が減少することになりますから、遺産を巡る紛争を生じさせることもありえますので注意が必要です。
法律上の「相続」にこだわらないのであれば、遺言書を作成することによって孫に対して財産を残すことが可能です。
遺言書では法定相続人以外の人に対して財産を渡すこともできるからです。これを一般に「遺贈」といいます。
生命保険金は、一般に相続財産ではなく受取人固有の財産とされています。
したがって、孫を生命保険金の受取人に指定しておけば、原則として生命保険金は遺産分割の対象とはならず、孫が直接生命保険金を受け取ることができます。
上記の他に、生前贈与の方法があります。
生前贈与には、暦年贈与、相続時精算課税制度、教育資金や結婚・子育て資金贈与の特例制度、住宅資金贈与の特例制度などの非課税制度があります。
もっとも、このような税制上の特例制度は制度の変更が頻繁に行われますので、常に最新の情報を確認しておく必要があります。
孫に対して財産を法律的に「相続」させる方法は、代襲相続を除けば養子縁組くらいしかありません。
法律上の「相続」にこだわらず、孫に対して財産を「残す」方法であれば、遺言(遺贈)、生命保険、生前贈与等の複数の方法が考えられます。
ただし、孫に対して財産を残す場合には税法上の複雑な問題が生じることがありますので、税理士等と十分に相談してから進めることをお勧めいたします。
民法では、遺言執行者の資格について「未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。」(民法1009条)という規定以外に定めはありませんので、相続人が遺言執行者になることも可能です。
法律事務所や司法書士事務所のサイトでは「相続人が遺言執行者になることはお勧めしない」という記載をよく見かけます。
本当に相続人が遺言執行者になることはお勧めできないのでしょうか?
お勧めしない理由として、一般にいわれているのは「遺言執行者が特定の相続人である場合、その相続人が有利になるような遺言書を作成させたのではないかとの不信感や不公平感が生まれ、他の相続人が協力してくれないことがある」というものです。
しかし、その説明にはやや疑問があります。
一般に、遺言が存在する場合において不信感や不公平感が生まれるのは、特定の相続人の取得分が法定相続分に比べて大幅に大きい場合です。
すなわち、特定の相続人の取り分が極めて大きい遺言書が出てきた時点で「この相続人は遺言者に対して何らかの働きかけをして自分に有利な遺言を作らせたのではないか」という不信感、不公平感が既に生じています。
その上で、その相続人が遺言執行者に指定されていれば、不信感が増すということはありますが、それは「オマケ」のようなものに過ぎません。
遺言の内容が公平で納得のいく内容のものであれば、仮に相続人の1人が遺言執行者に指定されていたからといって、不信感や不公平感が生じることは少ないのではないでしょうか。
では、遺言執行者が相続人である場合のデメリットは全くないのでしょうか?
この点、相続に関してあまり詳しくない相続人が遺言執行者になった場合に、手続きが大変で時間がかかってしまうことが考えられます。
また、遺言執行者として指定された相続人が責任を持って遺言執行を行う自身がないために就任を拒否してしまった場合には、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を求めなければならない事態も生じえます。
そのような意味では、法律専門家を遺言執行者に指定したほうがスムーズに遺言内容を実現することができるという面は否定できないでしょう。
相続人が遺言執行者となることは、法律上なんら問題ありません。
相続人が遺言執行者になることのデメリットとして「不信感や不公平感が生じる」ことを挙げているサイトが多くみられますが、一般には、特定の相続人のみが法定相続分に比べて大幅に大きな遺産を取得する内容の遺言書が存在すること自体が不信感や不公平感を生む原因であり、相続人が遺言執行者になっていることのみで不信感や不公平感が生じることは少ないと思われます。
もっとも、相続に関して不慣れな相続人が遺言執行者となった場合は、手続きが大変で時間がかかることがあり得ますので、法律専門家を遺言執行者に指定することでスムーズに遺言内容が実現するという面はあるでしょう。
遺産分割協議を行うためには、相続人全員による協議が必要です。
相続人のうち1人でも参加せずに行われた遺産分割協議は無効です。
それでは、相続人と連絡が取れない場合はどうすればいいのでしょうか。
まず、遺言書がないか確認してみましょう。
遺言書があり、遺言書で全ての遺産について遺産分けの内容が記載されていれば、特定の相続人と連絡が取れなくても遺産分けが完了する場合があります。
遺言書の有無を確認する方法は、コラム「遺言書の有無を確認する方法」をご参照ください。
遺言書がない場合は、連絡が取れない相続人の住所を調べましょう。
住所を調べるためには戸籍の附票を取り寄せます。
本籍が判明している場合には、本籍地の自治体で取り寄せます。兄弟姉妹の戸籍の附票の入手には少し手間がかかりますが、相続手続という正当な理由のためであれば取り寄せることが可能です。
戸籍の附票には住民票上の住所が記載されていますので、手紙を送るなどして連絡を取ってみましょう。
住所が判明して手紙を送ったにもかかわらず返事が来ない場合には、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てるという方法があります。
遺産分割調停を申し立てると、家庭裁判所から相手の住所へ呼び出し状が送られます。
相続人が住民票上の住所に住んでいた場合、裁判所からの連絡は無視するわけにはいかないと思って、裁判所に連絡を入れたり、調停期日に出頭する場合があります。
住民票上の住所へ手紙を送っても返事が来ない場合には、その住所に住んでいないことも考えられます。
他の親族などに尋ねても住んでいる場所が分からないようであれば、自力で調査することは困難です(興信所などに依頼することも考えられますが高額な費用がかかります)。
そのような場合は、家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任を求めます。
家庭裁判所が不在者財産管理人を選任すると、当該管理人が行方不明の相続人の代理人として遺産分割協議に参加してくれます。
遺産分割協議を行いたいが相続人と連絡が取れない場合には、まず、遺言書の有無を確認しましょう。
遺言書が存在しない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がありますので、戸籍の附票を取り寄せて相続人の住民票上の住所を確認し、手紙を送るなどして連絡を取ることを試みましょう。
手紙を送っても返事が来ない場合には、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てるか不在者財産管理人の選任を申し立てましょう。
相続債務とは、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務です。例えば、借入金、未払金、滞納している家賃・水道光熱費などです。
間違われやすいものに葬儀費用があります。葬儀費用は相続税の計算においては遺産総額から差し引くことができるので「相続債務」のように錯覚しやすいのですが、「被相続人が死亡したときに現に存在した」債務ではないので、相続債務ではありません。
遺産分割協議において、相続人間で相続債務を誰が負担するかについて話し合うことは可能です。
実際に、被相続人が事業を営んでいた場合などにおいて、相続人間の協議の結果、事業を引き継ぐ相続人が事業用不動産を承継するとともに事業に関する借入金債務を負担することを約束するということはよく行われています。
ただし、相続債務について相続人間で話し合って合意に至ったとしても、当該合意は相続債権者に対して主張できないという点に注意する必要があります。
なぜかというと、例えば、被相続人の遺産が5億円あり、金融機関からの借入金が3億円あるという場合、仮に相続人をA、B、Cの3人として、相続人全員で、Aが5億円の遺産を取得し、Bは何も取得せず、Cが3億円の債務だけ引き受けるという合意ができたとします。
この合意を金融機関に主張できるとなると、金融機関はたまったものではありません。もし、Cが全く資産を有していなければ金融機関は貸付金を1円も回収することができない結果となります。
したがって、相続債務の負担について相続人間で合意が形成されたとしても、当該合意は相続債権者には主張できないのです。
金融機関からの借入金のような可分債務については、相続開始と同時に法定相続分に従い当然に分割されて各相続人に承継されることになりますので(最高裁昭和34年6月19日判決)、相続人間においてどのような合意があろうと、相続債権者としては法定相続割合に従って各相続人に対し請求することが可能です。
つまり、上記の例でA、B、Cの相続割合が等しいとすると、金融機関はA、B、Cに対してそれぞれ1億円ずつの請求を行うことができます。
上記のとおり、相続債務に関する相続人間の合意内容を金融機関に主張することはできません。
相続人間の合意を金融機関に認めてもらいたい場合には、金融機関と別途交渉する必要があります。
金融機関との交渉の結果、金融機関が特定の相続人のみが債務者となることについて了承してくれる場合にはしかるべき書面を交わすことになります(一般的には免責的債務引受契約という形式を取ります。)。
遺産分割協議で遺産分割について結論が出ない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。
遺産分割調停の場においても、共同相続人全員の合意があれば相続債務について協議することは可能です。
そして、相続人全員で合意が形成されれば、その内容が調停調書に記載されます。
ただし、この場合でも、相続人による合意内容を相続債権者に対して主張することはできません。
理由は前記と同様です。
まず、前記のとおり、金融機関からの借入金のような可分債務については、相続開始と同時に法定相続分に従い当然に分割されて各相続人に承継されますので、遺産分割審判の対象とはなりません(最高裁昭和34年6月19日判決)。
次に、不可分債務については、相続開始と同時に共同相続人の全員に帰属して各相続人が当該債務の全部について責任を負います。
したがって、不可分債務についても遺産分割審判の対象にはなりません。
相続債務とは、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務です。
共同相続人間で、相続債務を誰が負担するかについて協議を行うことは可能です。遺産分割調停において協議を行うことも可能です。
もっとも、遺産分割協議や遺産分割調停において相続人間で合意が形成されたとしても、当該合意内容を相続債権者に主張することはできません。
遺産分割審判において相続債務は審判の対象となりません。
遺産に収益不動産(賃貸不動産)がある場合、相続開始後から遺産分割が終了するまでの間にも賃料が発生し続けます。
この賃料をどうやって管理し、どうやって分けるのかが問題となります。
共同相続人の間で収益不動産を取得する人が決まっており、揉めることがないという場合には、不動産を取得する相続人が賃料の受取人になり、賃借人に対して賃料の振込口座の変更を伝えて、その相続人名義の口座で賃料を受領すればよいでしょう。
収益不動産を取得する相続人が決まっていない場合は難しい問題が生じます。
一般に、被相続人が死亡したことを金融機関が知ると、被相続人名義の口座が凍結されて入出金ができなくなります。
そのため、これまで被相続人名義の口座に振り込まれていた賃料を誰の口座で受領して管理するかという問題が生じます。
相続人間でとりあえず仮の代表者を決めて、仮の代表者の口座へ振り込んでもらうということが実際にはよく行われています。
また、管理会社が賃料を受け取っていた場合は、そのまま管理会社が受領し続けるケースが多いでしょう。
賃料の分配方法については、相続人間の協議で話し合いがつけば、話し合いの結果に従って分けることになります。
例えば、収益不動産を最終的に誰が相続するかについては決まっていないが、当面1人の相続人が代表として賃料を受領し、半年に1回、他の相続人に分配する(この場合、一般に、固定資産税などの経費を控除してから分配する)などの方法がとられることがあります。
上記のような方法で分配が行われることなく、仮の代表者が長期間にわたって賃料を受領し続ける場合があります。
遺産分割の争いが激しくて相続人間で話し合いがまとまらないとか、話し合うことすらできないような場合には、このようなことが起こりえます。
このように争いが激しい場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。
遺産分割調停では、一般に、不動産、預貯金、株式、相続開始後の賃料などの全てについて話し合われますので(場合によっては負債についても協議します)、それぞれの金額を評価したうえで、バランスが取れるように遺産分割の方法を検討することになります。
調停においての話し合いの結果、例えば、相続人がA、B、Cの3人だとした場合、Aが収益不動産と相続開始後の賃料を取得する、Bが自宅不動産を取得する、Cが預貯金を取得する、などの結論に至った場合には、その旨の調停調書が作成されて解決します。
なお、上記のような解決方法の場合、相続人間の調整のために相続人間で金銭のやり取りを行う場合があります(代償金の支払い)。
調停で解決できない場合は、遺産分割審判手続に移行します。
ここで注意しなければいけないのは、相続開始後の賃料の帰属や分配の問題については、遺産分割審判では判断されないということです。
すなわち、判例では、遺産共有の状態にある不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、当該不動産を共有する相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得するとされているからです(最高裁平成17年9月8日判決)。
(分割単独債権だとなぜ審判の対象とならないかについては、コラム「貸金は遺産か」を参照)
以上のとおり、遺産分割審判では相続開始後の賃料の帰属や分配については判断の対象とはなりません。
そうすると、仮の代表者が受領していた賃料を他の相続人に対して分配しない場合には、他の相続人はどうすればよいのでしょうか。
その場合、他の相続人が賃料の分配を請求するためには民事訴訟を提起する必要があります(なぜ民事訴訟と提起しなければならないかについては、コラム「貸金は遺産か」及び「なぜ使途不明金は家庭裁判所で判断できないのか」を参照)。
遺産の中に収益不動産がある場合、相続開始後の賃料については、共同相続人間で分配方法について話し合いがつけば、話し合いの結果に従って分配することになります。
話し合いがつかない場合は、遺産分割調停の場で話し合いを行い、結論が出れば調停調書が作成されて解決します。
調停でも解決しない場合は遺産分割審判に移行しますが、遺産分割審判では、相続開始後の賃料の帰属や分配については判断の対象となりません。
したがって、賃料を受領して分配しない相続人に対して賃料の分配を求めるためには民事訴訟を提起する必要があります。
遺産に不動産が含まれている場合、遺産分割が終了するまでの間に様々な問題が生じることがあります。また、遺産分割が終了した後においても問題が生じることがあります。
相続財産である不動産を少数割合の共有持分しか有していない相続人が占有している場合、多数割合の共有持分を有している相続人は、不動産を占有している相続人に対して不動産の明渡を請求できるでしょうか。
この点、「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」(民法252条1項前段)との規定からすれば、過半数の共有持分を有している相続人は不動産を占有している少数持分の相続人に対して明渡請求が可能なようにも思えます。
しかし、少数割合とはいえ共有持分は所有権の一形態であり、条文上も「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」(民法249条1項)と規定されています。
したがって、多数割合の共有持分を有しているからといって、ただちに明渡を請求することはできないと考えられます。
判例も、「他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといって(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従って、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。」と判示しており(最高裁昭和41年5月19日判決)、当然には明渡請求を行うことはできないとしています。
上記のとおり、多数持分権者といえども少数持分権者が不動産を占有している場合に明渡請求を行うことは困難ですが、1人の相続人が被相続人と同居していた場合は、さらに明渡請求は困難となります。
平成8年12月17日の最高裁判決によると、相続人の1人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居していた場合には、遺産分割終了までの間は使用貸借関係が存続するとしているので、いっそう、明渡を求めることはできないということになります(詳しくはコラム「親の死後に遺産である建物に住み続ける相続人に対し賃料を請求できるか?」をご覧ください。)。
内縁の配偶者には相続権がありません。
したがって、被相続人の死後において、内縁の配偶者は共有持分権も有していないので、相続人からの明渡請求に応じなければならないようにも思えます。
しかし、相続人からの明渡請求に対しては権利の濫用として明渡を拒むことができる場合が多いと思われます(最高裁昭和39年10月13日判決参照)。
遺産である不動産を相続人の1人が占有している場合、多数割合の共有持分を有している相続人であっても、ただちに明渡を請求することはできません。
また、相続人の1人が被相続人と同居していた場合には、遺産分割が終了するまでの間は明渡を請求することはできません。
内縁配偶者が遺産である不動産を占有している場合、相続人が内縁配偶者に対して明渡請求を行ったとしても、権利の濫用として請求が認められない場合が多いと思われます。
相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を他の人に譲ることであり、遺産全体に対する共同相続人の包括的持分又は法律上の地位を譲渡することを意味します。
共同相続人の1人が他の共同相続人に対し、自身の相続分を譲渡した場合の効果について、具体例でみていきましょう。
【具体例】
被相続人が亡くなり、法定相続人は妻、子A及び子Bとします。
法定相続分は、妻:1/2、子A:1/4、子B:1/4です。
子Aが子Bに対し自身の相続分を譲渡した場合、
妻の相続分は変わらず1/2です。
子Aの相続分1/4が子Bに移転するので、子Bの相続分は1/4+1/4=1/2となります。
相続分の放棄とは、遺産に対する自身の共有持分権を放棄する意思表示のことです。
相続分の放棄の効果については、放棄した者の相続分が他の相続人に対して相続分に応じて帰属するという見解と、相続放棄と同様に扱う見解(コラム「相続放棄と相続分の放棄の違い」参照)があります。
実務においては、放棄した者の相続分が他の相続人に対して相続分に応じて帰属するという見解が有力であり、以下ではこの見解に基づいて具体例について検討します。
上記の例と同様に、被相続人が亡くなり、法定相続人は妻、子A及び子Bとします。
法定相続分は、妻:1/2、子A:1/4、子B:1/4です。
この場合、子Aが相続分の放棄をした場合、子Aの法定相続分1/4が他の相続人に対して相続分の割合に応じて配分されます。
すなわち、妻と子Bの相続分の比は、1/2:1/4=2:1です。
したがって、子Aの相続分1/4を、妻と子Bに対し2:1の割合で配分することになり、
妻に対して1/4×2/3=1/6を加算し、
子Bに対して1/4×1/3=1/12を加算する
ことになります。
結果としての相続分は、
妻:1/2(元の相続分)+1/6(加算分)=2/3
子B:1/4(元の相続分)+1/12(加算分)=1/3
となります。
なお、「相続分の放棄」と「相続放棄」は全く異なる概念ですので注意してください(コラム「相続放棄と相続分の放棄の違い」参照)。
相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を他の人に譲ることであり、他の相続人に譲渡した場合、譲渡を受けた相続人は譲渡した人の相続分だけ相続分が増加することになります。
相続分の放棄とは、遺産に対する自身の共有持分権を放棄する意思表示のことであり、実務の有力説によれば、放棄した者の相続分が他の相続人に対して相続分に応じて帰属することになります。
なお、「相続分の放棄」と「相続放棄」とは全く別の概念ですので注意が必要です。
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことです。
相続分の放棄とは、遺産に対する自身の共有持分権を放棄する意思表示のことです。
相続放棄と相続分の放棄は、言葉の上では一見似ていますが、以下のような違いがあり、全く別の法的概念です。
相続放棄の場合、最初から相続人でなかったことになるため(民法939条)、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)も含めて全ての財産を放棄することになります。
相続分の放棄の場合、自身の共有持分権を放棄するだけなので、放棄するのはプラスの財産のみです。
したがって、マイナスの財産(負債)については法定相続分で承継することになります。
相続放棄の場合、家庭裁判所で手続を行う必要があります。
手続の期限は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。
相続分の放棄の場合、法的手続は必要ではなく、期限もありません。
相続放棄の場合、先順位の相続人が全員放棄すると、次順位の親族が相続人となります。
例えば、配偶者と子1人が法定相続人の場合、子が相続放棄を行った場合、被相続人の親が生存していれば親が第二順位として相続人になります。
相続分の放棄の場合、相続権が次順位へ移行することはありません。
ある相続人が相続放棄を行うと、その相続人は最初から相続人でなかったことになるため(民法939条)、最初からいなかったものとして相続割合が計算されます。
例えば、被相続人が亡くなり、法定相続人は妻、子A及び子Bとします。
本来の法定相続分は、妻:1/2、子A:1/4、子B:1/4です。
この場合、子Aが相続放棄を行った場合、最初から「子Aはいなかったもの」としますので、法定相続分は、妻:1/2、子B:1/2となります。
相続分の放棄の場合、「放棄した者の相続分が他の相続人に対して相続分に応じて帰属する」という実務の有力な見解に従うと、上記の例で、例えば子Aが相続分の放棄をした場合、子Aの法定相続分1/4が他の相続人に対して相続分の割合に応じて配分されます。
すなわち、妻と子Bの相続分の比は、1/2:1/4=2:1です。
したがって、子Aの相続分1/4を、妻と子Bに対し2:1の割合で配分することになり、
妻に対して、1/4×2/3=1/6を加算し、
子Bに対して、1/4×1/3=1/12を加算する
ことになります。
結果としての相続分は、
妻:1/2(元の相続分)+1/6(加算分)=2/3
子B:1/4(元の相続分)+1/12(加算分)=1/3
となります。
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことで、相続分の放棄とは、遺産に対する自身の共有持分権を放棄する意思表示のことです。
両者は一見似ていますが、放棄する対象、手続と期限、相続権の次順位への移行、相続割合の計算などが異なる全く別の法的概念です。
民法975条は「遺言は、2人以上の者が同一の証書でこれをすることができない。」と規定しています。これを「共同遺言の禁止」といいます。
つまり、2人以上が同じ証書(同じ紙)に遺言を書くことは禁止されており、もし、2人以上が同じ紙に遺言を書いた場合は全てが無効になります。
ただし、2人以上が別の紙に遺言を書いて同じ封筒に入れたような場合は「共同遺言」には当たらないので有効です。
共同遺言が禁止される理由は、一つは、一方の遺言者が他方の遺言者に対する斟酌から自由意思に基づかない遺言を作成してしまうおそれがあるからです。
もう一つは、共同遺言を撤回しようとしても「共同で作成した以上、共同で撤回しなければならない」という考え方になるため、一方の遺言のみを撤回することができないということになり、民法が遺言の撤回の自由を認めた(民法1022条)趣旨に反してしまうからです。
共同遺言に関する裁判例としては以下のようなものがあります。
【最高裁昭和56年9月11日判決】
同一の証書に2人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、共同遺言に当たり無効とされました。
【最高裁平成5年10月19日判決】
1通の証書に2人の遺言が記載されている場合であっても、その証書が各人の遺言書の用紙をつづり合わせたもので、両者が容易に切り離すことができるときは、同遺言は民法975条によって禁止された共同遺言には当たらないとしました。
【東京高裁昭和57年8月27日】
被相続人が署名・捺印するとともに、第三者の署名・捺印もしたという事案において、判決は、共同遺言であるかのような形式となってはいるが、その内容からすれば、被相続人のみの単独の遺言であり、被相続人が自己の氏名の下に、第三者の氏名を書き加えたのは、第三者との間でつねづね話し合っていたという経緯からして、その遺言における財産の配分については、第三者と相談の上、決めたものであり、その内容については、第三者も同じ意思である旨示す趣旨から書き加えたものと解するのが相当であって、本件遺言書は、被相続人の自筆証書による単独の遺言として有効であるとしました。
【大阪地裁平成12年8月31日判決】
第三者が同意する旨の記載があるが、遺言書の内容は、被相続人の所有物が対象であることは明らかであって、共同遺言には当たらないとしました。
共同遺言は民法の規定によって明文で禁止されています。
その趣旨は、遺言書の作成や撤回を遺言者の自由意思で行うことを保証することにあります。
もっとも、共同遺言に該当するか否かについては、形式のみで判断するのではなく、事案の内容によって判断しているようです。
遺言の形式的有効性の要件は、コラム「遺言の形式的効力」で説明しましたが、①自書性、②日付、③署名、④押印の4つです。
もっとも、①自書性については、平成30年民法改正において、目録の記載に関して例外が認められるようになりました(コラム「自筆証書遺言に関する平成30年民法改正について」参照)。
他人が自筆証書遺言を偽造した場合、①自書性の要件を満たさないので当然無効です。
他人の偽造による遺言は当然無効といっても、偽造を証明するためにはどうすればよいでしょうか。
「もちろん筆跡鑑定ですよね」という声が聞こえてきそうです。
筆跡鑑定とは、複数の筆跡を比較・対照して、それらの筆者が同じであるか否かを鑑別することです。
筆跡というものは、同じ人物が同じ文字を書いても完全に一致するものではなく(「個人内変動」といいます)、年齢を重ねることによっても変化します(「経年変化」といいます)。
指紋鑑定やDNA鑑定がほぼ100%であるのに対し(これらも絶対的なものではありませんが)、筆跡鑑定は、指紋やDNAに比べると信用性が低くなります。
筆跡鑑定の信用力について言及した裁判例で有名なものとして、東京高裁平成12年10月26日判決があります。
一審で裁判所が選任した筆跡鑑定人は「ア 配字形態は、類似した特徴もみられるが総体的には相違特徴がやや多く認められる、イ 書字速度(筆勢)は、総体的に相違特徴が見られる、ウ 筆圧に総体的にやや異なる特徴がみられる、エ 共通同文字から字画形態、字画構成の特徴等をみると、いくつかの漢字では形態的に顕著な相違があり、ひらがな文字では総体的には異なるものがやや多い傾向がある」として、別異筆記と推定する(つまり偽造である)との結論を出しました。
一審判決は、同鑑定結果を採用して遺言を無効と判断しました。
しかし、別の鑑定意見書(私的鑑定と思われる)では「いくつかの漢字について相違しているもの、類似しているものを挙げ、また、両者の筆跡に筆者が異なるといえるような決定的な相違点は検出されない」として、筆者が同じであると推定される(つまり偽造ではない)との結論を出していました。
控訴審である本判決は、両者の鑑定は「基本的な鑑定方法を異にするものではない」とした上で、「筆跡の鑑定は、科学的な検証を経ていないというその性質上、その証明力に限界があり、(中略)筆跡鑑定には、他の証拠に優越するような証拠価値が一般的にあるのではないことに留意して、事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできない。」と述べて、筆跡鑑定に頼ることなく「総合的な分析検討」を怠ってはならないと注意喚起をしています。
結論として、本判決は、遺言者の生活状態などを詳細に検討した結果、遺言は偽造されたものではなく有効であると認めました。
遺言者の生活状態などを詳細に検討して判断する手法は、遺言能力の判断の際にも用いられています。詳しくは、コラム「認知症の人が作成した遺言書は無効になるのか」をご覧ください。
遺言を偽造したか否かについては筆跡鑑定が決定的な証拠となるものではない。
遺言が偽造されたかどうかについては、筆跡鑑定の信用力に限界があることから、遺言者の生活状態などを詳細に検討して判断される。
遺留分侵害額請求権は「相続の開始」及び「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったとき」から1年が経過すると時効によって消滅します(民法1048条前段)。
また、上記とは別に、相続開始の時から10年経過すれば権利行使ができなくなります(同条後段)。
上記の期限内に遺留分侵害額請求を行った場合、遺留分侵害額を金銭で支払うよう請求できる「金銭債権」が発生します(民法1046条1項)。
この「金銭債権」の消滅時効期間は、上記の1年又は10年の期間の問題とは別の話であり、民法166条1項1号の規定に従って5年となります。
改正前の民法が適用される事案では、遺留分減殺請求権の行使により物権的な効果が生じ、遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に権利が帰属します。
したがって、遺留分減殺請求の対象が不動産である場合、遺留分権利者は不動産の共有持分権(所有権)を有することになります。
そして、所有権は消滅時効にかからないため、共有持分権(所有権)に基づく登記手続請求権は時効によって消滅することはありません。
遺留分を侵害されている相続人が遺留分を侵害している相続人に対して、遺産分割協議を申し入れたが、遺留分侵害額請求は行わなかったという場合に、遺留分侵害額請求を行ったことになるかという問題があります。
前記のとおり、遺留分侵害額請求には時効がありますので、例えば、相続開始と遺留分を侵害する遺言書の存在を知ってから1年以内に遺産分割協議の申入れは行ったものの、期限内に遺留分侵害額請求を行わなかった場合に、遺留分侵害額請求権が時効消滅するかという問題です。
この点については、改正前の遺留分減額請求に関して興味深い最高裁判例があります。以下の最高裁平成10年6月11日判決です。
「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」
本判決は、遺産分割協議の申入れは当然に遺留分減殺請求の意思表示を含むものではないという原則を確認した上で、本件の事情(全財産が相続人の一部の者に遺贈されており、理論上遺産分割の余地はない)に鑑みれば、遺産分割協議の申入れは「法律的にみれば遺留分減殺請求の意思表示とみるしかない」というロジックを使って結論を導いています。
したがって、本判決の結論を一般化することは困難であり、単純に「遺産分割協議の申入れには遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求)の意思表示が含まれている」と理解することは危険です。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年経過するか相続開始の時から10年経過すると権利が消滅します。
(改正後の)遺留分侵害額請求を行った場合には金銭債権が発生し、当該金銭債権の時効は5年です。
(改正前の)遺留分減殺請求を行った場合、減殺請求の対象が不動産の場合、登記手続請求権は時効にかかりません。
遺留分を侵害されている相続人が遺留分を侵害している相続人に対して、遺留分減殺請求を行わず、遺産分割協議を申し入れた場合に、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれているとした最高裁判決がありますが、一般化して理解することは危険です。
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人が、貢献の程度に応じて、より多くの遺産を受け取れる制度です。
そして、原則として、寄与分が認められるためには相続人自身による行為(貢献)が必要だとされています。
それでは、代襲相続の場合に、被代襲者の寄与行為を代襲相続人は主張できるのでしょうか。
代襲相続人「自身」の貢献ではないので問題となります。
この点、学説としては「代襲相続人は被代襲者に代わって被代襲者の相続分を受けるものであるから、被代襲者が生存していたなら主張できたはずの寄与分を主張することができる」との肯定説が通説のようです。
裁判例においては、最高裁の判断は見当たりませんが、例えば、東京高裁平成元年12月28日決定では、
「寄与分制度は、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした相続人に、遺産分割に当たり、法定又は指定相続分をこえて寄与相当の財産額を取得させることにより、共同相続人間の衡平を図ろうとするものであるが、共同相続人間の衡平を図る見地からすれば、被代襲者の寄与に基づき代襲相続人に寄与分を認めることも(中略)許されると解するのが相当である。」
と述べており、肯定説を採用しています。
上記の話とは別に、代襲相続人自身が寄与行為をした場合について、寄与行為の時期を問わず寄与分を主張できるかという論点があります。
寄与分を規定した民法904条の2第1項が「共同相続人中に」との文言を使用していることから問題となります。
厳密に言えば、代襲原因が生じる前(被代襲者が生存しているとき)は代襲相続人は推定相続人ではありません。
代襲原因が生じた後(被代襲者の死亡後)に代襲相続人は推定相続人となり、被相続人の相続開始によって代襲相続人は法定相続人となります。
そのため、「代襲原因が生じる前の寄与行為は主張できないが代襲原因が生じた後の寄与行為は主張できる」との考え方もあり得ます。
しかし、通説は、共同相続人間の公平を図るという寄与分制度の趣旨を重視すべきこと、遺産分割の時点では「共同相続人」であるので条文の文言に反するとはいえないことから、「代襲原因の前後を問わず全ての寄与行為について寄与分を主張できる」としています。
この点は、代襲相続人が得た特別受益が持戻しの対象となるか否かの論点と扱いが異なるので注意が必要です(コラム「代襲相続と特別受益」参照)。
代襲相続の場合に、代襲相続人は被代襲者の寄与行為を主張できると考えられます(通説及び高裁判例)。
代襲相続人自身が寄与行為を行った場合には、代襲原因の前後を問わず寄与分を主張できるとするのが通説です。
以前のコラムで遺贈は寄与分に優先すると書きましたが(「なぜ遺贈は寄与分に優先するのか」)、今回は寄与分と遺留分の優先関係の問題です。
特定の相続人の寄与分が大きくて、他の相続人の遺産の取得額が遺留分を下回ってしまうことは許されるのでしょうか。
たとえば、父親(被相続人)が死亡し、相続人が長男と長女だとします。遺産総額が3000万円だとすると、長男と長女の各遺留分は3000万円×1/2×1/2=750万円です。
この例で、長男が寄与分を主張した場合に、長男の寄与分を2000万円と定めることはできるでしょうか。
もし、長男の寄与分を2000万円と定めれば、長男と長女の具体的相続分は以下のとおりです。
3000万円(相続財産)-2000万円(寄与分)=1000万円(みなし相続財産)
1000万円÷2=500万円(一応の相続分)
具体的相続分は、
長男:500万円+2000万円=2500万円
長女:500万円
この結果は長女の遺留分(750万円)を侵害していることになります。
上記の例のように、他の相続人(上記の例の長女)の遺留分を侵害する結果となる寄与分の額を定めることはできるのでしょうか。
この点、法文上、寄与分の額に上限が定められていないことから、他の相続人の遺留分を侵害する寄与分を定めることも可能とされています。
しかしながら、裁判例(東京高裁平成3年12月24日決定)では「確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。(中略)寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」と判示しており、安易に遺留分を侵害する内容の寄与分を定めるべきではないとしています。
他の相続人の遺留分を侵害する結果となる寄与分を定めることは、法文上の制限がないため可能です。
もっとも、裁判例においては、他の相続人の遺留分を侵害するかどうかについて考慮しなければならないとされています。
被相続人は平成13年2月に死亡したが、配偶者との間に子がいる他に別の女性との間にもうけた子がいました。
本件は、被相続人と配偶者との間の子が遺産分割審判を求めた事案です。
裁判所:那覇家庭裁判所
裁判年月日:令和5年2月28日
平成25年改正前民法900条4号ただし書前段の規定(旧規定)によると「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」とされていました。
しかしながら、同規定には批判が強く、憲法14条1項(法の下の平等)に違反するのではないかということで多数の裁判が起こされていました。
有名な最高裁平成7年7月5日大法廷決定(平成7年決定)では「旧規定は合憲」と判断されました。
しかし、最高裁平成25年9月4日大法廷決定(平成25年決定)では、「旧規定は遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していた」旨を判示しました。
平成25年決定を受けて国会は民法を改正し、旧規定は削除され、嫡出子と非嫡出子との相続分は同等になりました。
ところで、平成7年決定の後、平成25年決定までの間にも最高裁は同種案件について複数の合憲判断を行っていました。その中で相続開始時が一番遅いのは相続開始時が平成12年9月の事案です。
この事案において最高裁は合憲判断を下しています(最高裁平成16年10月14日第一小法廷判決)。
すなわち、最高裁の判断は、一番遅い時期の合憲の判断は「平成12年9月時点において旧規定は合憲であった」というもので、一番早い違憲判断は「遅くとも平成13年7月当時において旧規定は違憲であった」ということになります。
したがって、平成12年10月から平成13年6月までの期間については最高裁によって合憲か違憲かの判断がなされていません。
この期間に相続が開始した事案において旧規定が合憲と判断されるのか違憲と判断されるのかが本件の争点でした。
本事案で那覇家庭裁判所は、平成13年2月の時点において旧民法は憲法14条1項に違反していたと判断しました。
今回は遺贈の放棄について解説します。
遺贈とは、遺言書で特定の人(受遺者)に対して無償で財産を譲る行為のことをいいます。
遺贈には包括遺贈と特定遺贈があります。
包括遺贈とは、相続財産の全部又は一定の割合を特定の人(受遺者)に遺贈することをいいます。
包括遺贈の場合、被相続人に属した権利のみならず義務も含めて受遺者に承継されます。
特定遺贈とは、遺言者が相続財産のうち特定の財産を具体的に特定したうえで、特定の人(受遺者)に対して無償で与える遺贈のことです。
特定遺贈の場合、受遺者が被相続人の義務を承継することはありません。
包括遺贈の受遺者は、相続の放棄・承認に関する規定が適用されることから(民法990条)、自己のために包括遺贈があることを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する方法により遺贈の放棄を行う必要があります(民法938条、915条)。
特定遺贈の放棄について期限はありません(民法986条1項)。
特定遺贈の放棄は相続人又は遺言執行者に対する意思表示によって行います。
意思表示の方法については制限がありませんので口頭でも可能ですが、証拠を残すためには書面(できれば内容証明郵便)で行うのがいいでしょう。
上記のとおり特定遺贈の放棄について期限はないので、受遺者がいつまで経っても意思表示をしない場合は困ります。
そこで、法は相続人等に催告権を与えています。
すなわち、遺贈を履行する義務を負う者やその他の利害関係者は、受遺者に対して、相当の期間を定めて遺贈を承認するか放棄するかを決めるように催告することができます。
催告を受けた受遺者がその期間内に意思表示をしない場合は遺贈を承認したとみなされます(民法987条)。
遺贈には包括遺贈と特定遺贈があります。
包括遺贈を放棄するには、自己のために包括遺贈があることを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する方法により遺贈の放棄を行う必要があります。
特定遺贈を放棄するには、相続人又は遺言執行者に対する意思表示によって行います。
特定遺贈の放棄に期限はありませんが、相続人等は受遺者に対して、特定遺贈を承認するか放棄するかを決めるように催告することができます。
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことです。
そうだとすると、被相続人に関連する財産は一切受け取れないようにも思えます。
しかし、相続放棄をしても受け取れる財産もあります。
生命保険金は生命保険契約に基づいて受取人が保険会社から直接受け取るものであって、受取人固有の財産とされています(最高裁昭和40年2月2日判決)。
したがって、生命保険金は「相続財産」ではないため、相続放棄をしても受け取ることができます。
しかし、生命保険の受取人が被相続人に指定されている場合は「被相続人の財産」=「相続財産」ということになるので、相続放棄をすると生命保険金を受け取ることはできません。
死亡退職金はそれが「相続財産」か否かで結論が異なってきます。
被相続人が国家公務員や地方公務員の場合、死亡退職金は遺族固有の権利であり相続財産ではないとされています。
民間企業の場合は、死亡退職金に関する支給既定の有無や従来の支給慣行等により相続財産かどうかが判断されます。
相続財産でないと判断される場合は、遺族固有の権利ということになるので相続放棄をしても受け取ることができます。
(詳しくはコラム「死亡退職金は相続財産か」をご覧ください。)
未支給年金については、それぞれの制度で法令によって受給権を有する遺族が決まっているので「相続財産」ではなく遺族の「固有財産」とされています(最高裁平成7年11月7日判決)。
したがって、相続放棄をしても未支給年金を受け取ることができます。
遺族年金は残された遺族の生計を維持するためのものですので「相続財産」ではありません。
そして、未支給年金と同様に法令によって遺族年金を受け取れる人が決まっています。
したがって、法令により受給権者に該当する人は、相続放棄をしても自己の固有の権利として遺族年金を受給することができます。
祭祀財産とは「系譜」「祭具」「墳墓」の3つのことを指します(民法897条1項)。
祭祀財産については、民法では通常の相続財産とは別に定めており、祭祀承継者が承継することとされています。
したがって、相続放棄をしても、その人が祭祀承継者であれば祭祀財産を承継することになります。
平成30年民法改正により、遺留分を算定するための財産の価額に加算する相続人に対する贈与(特別受益)については、相続開始前10年間にしたものに限ることになりました。
改正の理由としては、
改正前の民法では、共同相続人に対する生前贈与(特別受益)が行われた場合には、その時期を問わず、原則としてその全てが遺留分を算定するための財産の価額に算入されると解されてきました(最高裁平成10年3月24日判決)。
しかし、上記最高裁判決によると、被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって、第三者である受遺者または受贈者が受ける減殺の範囲が変わることになり、第三者である受遺者または受贈者に不測の損害を与えるとの不都合が指摘されていました。
また、相続開始時の財産が債務超過でも、何十年も前の贈与の価額が加算されることにより資産超過の状態に変わりうることとなり、遺留分制度の潜脱防止の観点から短期間に限って生前贈与を遺留分算定の基礎となる財産に含めることとした民法の規定の趣旨を没却するとの指摘もありました。
そこで、改正民法では、相続人に対する贈与(特別受益)については、相続開始前の10年間になされたものに限って遺留分を算定するための財産の価額に加算することとしました。
ところで、相続人に対する贈与(特別受益)のうち相続開始前の10年間にされたものに限るのは、「遺留分を算定するための財産の価額」に算入する計算式についてであり、「遺留分侵害額」を求める計算式においては、「遺留分権利者の特別受益の額」を相続開始前の10年間にされたものに限定せず、これに加算します。
このことは、明文の規定より明らかです。
すなわち、民法1046条と903条を見ると、以下のようになっています。
第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 〔略〕
三 〔略〕
第903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
上記のとおり、遺留分侵害額の計算においては、「遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額」が控除されることになっており、「第903条1項に規定する贈与」は相続開始後10年間にされたものに限定されていません。
この点は誤解しやすい点ですので注意が必要です。
遺産を分割する方法は4つあります。
①現物分割、➁代償分割、③換価分割、④共有分割の4つです。
①現物分割というのは、個々の財産の形状や性質を変更することなく分割することです。例えば、次のような分け方です。
「甲はA土地を取得する。乙はB土地を取得する。丙はC土地を取得する。」
➁代償分割というのは、一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上で、他の相続人に対する債務を負担させる方法です。
代償分割が認められるのは、次のような場合です。
ⅰ)現物分割が不可能な場合
ⅱ)現物分割をすると分割後の遺産の価値が著しく減損する場合
ⅲ)諸事情により特定の遺産を特定の相続人に相続させるべき必要がある場合
ⅳ)共同相続人間に代償分割を行うことについて争いがない場合
③換価分割とは、遺産を売却等で換金した上で、代金を分配する方法です。換価分割には、当事者全員の合意による任意売却と審判における換価とがあります。
④共有分割とは、遺産の一部又は全部を具体的相続分による共有取得とする方法です。この方法を採った場合、共有関係が解消しないため、共有関係を解消するためには、別途、共有物分割訴訟を行う必要があります。
被相続人が亡くなり、遺言書が出てきて、自分の取得分が明らかに少ないときは「私の遺留分が侵害されているのではないか?」と考えます。
自分の遺留分が実際に侵害されているのか、侵害されているとして幾ら侵害されているのか、ご自身で計算できるでしょうか?
本コラムでは、遺留分の侵害の有無、遺留分の侵害額を判断する方法について解説します。
まず、「遺留分を算定するための財産の価額」というものを算出します。
民法1043条では「遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」と規定されています。
上記のうち「その贈与した財産の価額」については民法1044条で詳しく規定されています(条文の引用は省略します)。
その結果を計算式で表すと、原則として以下のとおりとなります。
◆遺留分を算定するための財産の価額
=相続開始時における被相続人の積極財産の額
+相続人に対する10年以内の特別受益の額
+第三者に対する1年以内の生前贈与の額
-被相続人の債務の額
上記で「遺留分を算定するための財産の価額」を算出したら、次は、自分の「個別的遺留分割合」を算出します。
「個別的遺留分割合」は「総体的遺留分割合」に「法定相続分の割合」を乗じて算出します。
「総体的遺留分割合」は原則として1/2ですが、例外的に相続人が直系尊属(親または祖父母など)だけの場合は1/3です(民法1042条1項)。
総体的遺留分割合に自分の法定相続分の割合を乗じて「個別的遺留分割合」を算出します(民法1042条2項)。
計算式で表すと以下のとおりとなります。
◆個別的遺留分割合
=総体的遺留分割合
×法定相続分の割合
具体例でみていきましょう。
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人(長男と長女)の場合、
①「総体的遺留分割合」は原則に従って1/2です。
②「法定相続分の割合」は、
配偶者:1/2
長男 :1/4
長女 :1/4
ですので、
③「個別的遺留分割合」は、
配偶者:1/4(←1/2×1/2)
長男 :1/8(←1/2×1/4)
長女 :1/8(←1/2×1/4)
となります。
なお、兄弟姉妹には遺留分は認められませんのでご注意ください(民法1042条)。
自分の遺留分の額を算出するには、上記の「◆遺留分を算定するための財産の価額」に「◆個別的遺留分割合」を乗じます。
計算式で表すと以下のとおりとなります。
◆自分の遺留分の額
=遺留分を算定するための財産の価額
×個別的遺留分割合
さいごに、遺留分侵害額を算出します。
遺留分侵害額の算出方法は民法1046条に規定されています。条文は長くて複雑なので省略しますが、計算式で表すと以下のとおりとなります。
◆遺留分侵害額
=自分の遺留分の額
-遺留分権利者(自分)が受けた贈与・遺贈・特別受益の額
-遺産分割の対象財産がある場合において遺留分権利者(自分)の具体的相続分に相当する額
+遺留分権利者(自分)が負担する債務
以上、遺留分の侵害の有無、遺留分の侵害額を判断する方法について解説しました。
被相続人に債務がなく、特別受益などの修正要素がない場合は比較的簡単に計算できます。
しかし、被相続人に債務がある、特別受益がある、遺産分割対象財産がある、などの場合はかなり難しくなります。
遺産分割審判において、療養看護や経済的な援助(扶養義務の履行)を寄与分として主張する場合があります(コラム「長年親を介護してきたのに寄与分は認めらないのか」参照)。
仮に、遺産分割審判において寄与分が認められなかった場合、改めて扶養料の求償を他の相続人に対して請求できるでしょうか。
この点について判断した判例として、大阪高裁平成15年5月22日決定があります。
同決定の基本的な考え方は、寄与分の手続きと扶養料の手続きは別物だというところにあります。
すなわち、同決定は、
「遺産総額が少ない場合には、そもそも寄与分制度を通じて過去の扶養料を回収することはできないし、寄与分審判の審理においては、一般に、過去の扶養料の求償権の有無及び金額を定める上で極めて重要な要素となる同順位扶養義務者の資力が調査されることはなく、その資力を考慮して寄与分が定められることもない。」
と判示し、寄与分の審理と扶養料の求償の審理とでは審理内容が異なることを指摘しています。
そして、上記の理由より、
「寄与分審判によっては、過去の扶養料の求償に関する適切な紛争解決が必ずしも保障されているとはいえないから、過去の扶養料の求償を求める場合には、原則として、扶養審判の申立てがされるべきであるといわなければならない。」
と、改めて過去の扶養料の求償に関する審理を求めることができると判示しています。
もっとも、以前のコラム「被相続人の扶養料を他の相続人に請求できるか」で記載したように、過去の扶養料の求償を請求する場合、民事裁判ではなく家庭裁判所で行う必要があります。
「みなし相続財産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
本来は相続財産そのものではないけれども「相続財産とみなす」というものです。
実は「みなし相続財産」には、税法上の「みなし相続財産」と民法上の「みなし相続財産」があるので注意が必要です。
税法上の「みなし相続財産」とは、簡単にいうと「被相続人が亡くなったことがきっかけで受け取る財産のこと」です。
例えば、生命保険金、死亡退職金、被相続人が死亡する前の一定期間内に贈与として受けた財産、相続時精算課税制度を利用して取得した財産などがあります。
これに対して、民法上の「みなし相続財産」は大きく異なります。
民法上の「みなし相続財産」は特別受益や寄与分がある場合に具体的な相続分を算定するために用いる概念です。
例えば、特別受益がある場合には、相続財産の額に相続人が受けた贈与の額を加算して「相続財産とみなし」ます(民法903条1項)。
また、寄与分がある場合には、相続財産の額から寄与分を控除したものを「相続財産とみなし」ます(民法904条の2第1項)。
そして、具体的相続分の額の算定方法としては、特別受益や寄与分によって算定された「みなし相続財産」に、各相続人の相続割合を乗じて各相続人の相続分(一応の相続分)を算定し、そこから特別受益者については特別受益の額を控除し、寄与相続人については寄与分の額を加えて算出します。
前回、死後事務委任契約について書きましたが、今回のテーマは「死後事務委任契約を解除することができるか」です。
死後事務委任契約については、そもそも、委任者の死亡を委任の終了事由と定める民法653条1号との関係で、委任者の死亡後も効力を有するのかという論点があります。
この論点に関して、最高裁平成4年9月22日判決は、民法653条が任意規定であることを前提に「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約がAとYとの間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者Aの死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく」として、死後事務委任契約は委任者の死亡により終了しないとの判断を示しています。
次に、委任者の死亡により当然に終了しないとしても「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定める民法651条の規定により、委任者の地位を承継した相続人が契約を任意解除できるかが問題となります。
この点、東京高裁平成21年12月21日判決は「自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから、・・(中略)・・特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と関する事が相当である」として、相続人による任意解除を否定しました。
しかし、この判例については批判も多く、今後の裁判所の判断について注意深く見守る必要があると思います。
最近、公正証書で死後事務委任契約を締結する人が増えています。
死後事務委任契約とは、本人(委任者)が相続人など(受任者)に対して、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等に関する代理権を付与して、死後事務を委任する契約のことです。
このような内容は遺言書で記載することも可能です。
ただし、死後事務については遺言の法定事項ではないので、「付記事項」としての記載となり、法的な効力はありません。
法的な効力を持たせるためには死後委任契約のほうが好ましいといえるでしょう。
もっとも、遺言において祭祀承継者の指定は可能です(民法897条1項ただし書き)。
遺言で祭祀承継者を指定した場合、原則的には祭祀承継者が葬儀関係を取り仕切ることになります。
遺言で祭祀承継者が指定されており、死後事務委任契約において別の人が葬儀等を行うことになっている場合には難しい法律関係が残ります(この論点について判断した裁判例として、東京高裁平成21年12月21日判決があります)。
当事務所では家族信託も扱っています。
家族信託は成年後見制度より柔軟な対応ができるなどメリットは大きいのですが、法律的にはかなり難しい内容を含んでいます。
法律的な論点の一つとして、家族信託で設定した内容と遺言の内容が一見異なるように見える場合にどちらが優先されるのか、という問題があります。
例えば、父親Aがいて、子どもB,Cがいるとします。
父親Aが、先に「私の財産は全てBに相続させる」との遺言を作成した後に、AとCが信託契約を結び、一定の財産を信託財産とし、同信託財産の帰属権利者をCに指定した場合、一見すると、信託財産の部分についてBが取得するのかCが取得するのか分からないように思えます。
上記の例では、民法の規定により家族信託が優先することになります。
すなわち、民法1023条2項によると、遺言と遺言後の法律行為が抵触した場合、抵触する部分については遺言が撤回したとみなされる、とされています。
したがって、上記の例では、信託財産の範囲で家族信託と遺言と抵触しますので、「遺言後の法律行為」である家族信託の締結によって、信託財産の部分については遺言が撤回されたとみなされるのです。
これに対して、先にAとCが一定の財産を信託財産とする家族信託を締結した後に、Aが「私の財産は全てBに相続させる」との遺言を作成した場合はどうでしょうか。
この場合は家族信託の性質から考えることになります。
一定の財産を信託財産として設定すれば、その財産はもはやAの固有財産ではなくなり、「誰のものでもない」特殊な財産となります。
したがって、家族信託を締結した後に「私の財産は全てBに相続させる」との遺言を作成しても、信託財産は「Aの全ての財産」に含まれていないので、Bが相続することにはなりません。
よって、この場合も信託財産の部分については家族信託が優先するということなります。
寄与分に関して「先行相続における相続放棄は特別の寄与に該当するか」という論点があります。
どういうことかといいますと、例えば、父親の相続(先行相続)のときに、母親(被相続人の配偶者)が相続放棄をして、遺産の全てを息子が相続したとします。
そして、息子が母親より先に亡くなり、息子には配偶者はいるが子どもはいないとします。
この場合、息子(被相続人)の法定相続人は配偶者と母親です。
この相続(後行相続)において、母親が「先行相続のときに、私が相続放棄したことにより息子の財産が増加したのだから、それを特別の寄与として考慮してほしい」という主張が成り立つか、という論点です。
この論点を正面から判断した審判例は見当たりませんが、学説では、先行相続における相続放棄は結果的に他の相続人の相続分を増大させるとはいえ、それ自体を目的として行うものではなく、また、相続放棄の理由や動機には様々なものがあるので(例えば、被相続人の事業を承継することを嫌って相続放棄を行うなど)、原則として寄与分を否定することが相当であるとされています。
もっとも、先行相続における共同相続の類型、相続放棄の理由又は動機、先行相続から後行相続までに経過した期間などを考慮して寄与分を肯定できる場合もあるとされています。
今回は、「財産出資型」の寄与分の特徴について述べます。
財産出資型の寄与分とは、相続人が、被相続人やその事業に対して、財産上の給付あるいは財産的な利益を提供して財産を維持・増加させ、あるいは、債務の返済等により被相続人の財産の維持に寄与する類型です。
この類型の特徴は、他の類型で要求される「継続性」や「専従性」が必要とされない点です(財産を出資したことが直接的に財産の維持・増加に寄与しているので)。
したがって、具体的要件としては、①特別の貢献、②無償性ということになります。
寄与分が認められた場合の寄与分額の算定方法としては、例えば、被相続人が不動産を取得する際に相続人が金銭を出資した場合、
寄与分額=相続開始時の不動産価額×(出資金額÷取得時の不動産価額)
という算定方法が一例です(全ての裁判官がこの方式を用いるとは限りません)。
今回は、寄与分の類型のうち「家業従事型」について述べたいと思います。
「家業従事型」の寄与分とは、相続人が被相続人の営む事業に無報酬あるいはそれに近い状態で従事し、労務を提供して、相続財産の維持又は増加に寄与する類型です。
被相続人が経営する会社の事業に従事した場合は、被相続人ではなく会社に対する貢献ですので、原則として寄与分は認められません。
ただし、当該会社が実質的には個人企業であるなど、被相続人と経済的に極めて密接した関係にあり、会社への寄与と被相続人の資産維持との間に明確な関連性が認められるような場合には、寄与分が認められる余地があります。
家業従事型は、さらに、a.家事従事型、b.従業員型、c.共同経営型の小分類に区別されることがあります。
「特別の寄与」に該当するための具体的要件は、①特別の貢献、②無償性、③継続性、④専従性です。
しかし、特に無償性の要件を満たすのは難しいとされています(一定の給与をもらっていた場合や、「給与」という名目でなくても相応の生活費をもらっていた場合には、通常、無償性の要件を満たさないとされます)。
ときどき、「特別受益に時効はありますか?」という質問を受けます。
こういう質問を受けた場合、まず、質問の趣旨を確認しなければなりません。
まず、「父が2か月前に亡くなりました。相続人は姉と私(妹)の2名です。私は30年前にマンションを購入する際に父から1000万円の援助をもらっています。30年も前のことなので時効ですか?」という質問の場合。
この質問であれば、「時効ではありません」という回答になります(正確には「時効」という制度自体ありませんが)。
法定相続人が被相続人から生計の資本として贈与を受けた場合、何年前の贈与であっても特別受益であり、遺産分割の際には持戻しの対象となります(持戻し免除の意思表示がある場合を除く)。
次に、「父が2か月前に亡くなりました。相続人は姉と私(妹)の2名です。父の遺言があり、全財産を私に相続させるという内容です。姉は私に対して遺留分侵害額請求を行いました。私は30年前にマンションを購入する際に父から1000万円の援助をもらっています。30年も前のことなので時効ですか?」という質問の場合。
この質問であれば、(「時効」という制度ではないですが)「遺留分を算定するための基礎となる財産に30年前の1000万円の贈与は含まれません」という回答になります。
これは平成30年民法改正(施行は令和元年7月1日)により、遺留分算定の基礎財産に含める特別受益を相続開始前10年間に制限したからです(民法1044条3項)。
さいごに、「父が亡くなってから15年経ちました。相続人は姉と私(妹)の2名です。これから姉と遺産分割の話し合いをしようと思います。父が亡くなる3年前、私がマンションを購入する際に父から1000万円の援助をもらっています。この特別受益は時効になりますか?」という質問の場合。
この質問の場合、(「時効」という制度ではないですが)「お姉様はあなたに対して1000万円の贈与を特別受益として主張することはできません」という回答になります。
これは令和3年民法改正(施行は令和5年4月1日)により、相続開始から10年経過した後の遺産分割では特別受益の主張ができないことになったからです(改正後民法904条の3柱書)。
ただし、改正の経過措置として、改正法施行後5年間は特別受益を主張することができますので、上記の例の場、令和10年3月31日までであれば、姉は妹に特別受益を主張することが可能です。
特別受益の有名な論点の一つに「生命保険金は特別受益になるか」という論点があります。
この論点の出発点は、特別受益の制度は相続人間の不公平を是正することにあるので、生命保険金を特別受益として持ち戻さなければ不公平ではないか、という問題意識があります。
本論点を論じる前に「生命保険金は相続財産か」という論点があります(コラム「死亡退職金は相続財産か」参照)。
もし、生命保険金が相続財産であるならば、生命保険金は遺産分割の対象となり、特別受益として持ち戻すような形となるので、「生命保険金は特別受益か」についてわざわざ論じる必要はありません。
この点、判例では「右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱している」として、生命保険金請求権は「相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない」とされています(最高裁昭和40年2月2日判決)。
本判例のポイントは、生命保険金請求権は保険契約に基づいて保険金受取人に権利が発生するのであって被相続人から承継する財産ではない、という点にあります。
次に、「生命保険金は相続財産ではない」としても、特別受益として持戻しの対象となるかという点は別の論点です。
この点について、判例は「死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、」「実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできない」と述べて、特別受益該当性を否定しています(最高裁平成14年11月5日判決)。
つまり、死亡保険金請求権は、被相続人から承継する財産ではない、という前記最高裁昭和40年2月2日判決を踏まえて、「遺贈」にも「贈与」にも該当しないと判断したのです(「遺贈」にも「贈与」にも該当しない以上、民法903条1項を直接適用することはできない。)。
上記のように、生命保険金請求権について民法903条1項を直接適用することはできません。
しかし、同条項の類推適用はできないでしょうか。
この点について述べた判例が、最高裁平成16年10月29日判決です。
判例は、原則として生命保険金請求権については特別受益に該当しないとしつつ、「死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」と述べています。
つまり、「贈与」や「遺贈」ではないので民法903条1項を直接適用することはできないが、被相続人が保険料を支払ったのだから被相続人が形成した財産といえる要素があること、被相続人の死亡によって発生する点で「遺贈」にも似た要素があることなどからすれば、類推適用の余地はある、としたのです。
ただし、あくまで生命保険金請求権は基本的に「遺贈」でも「贈与」でもないので、「不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいもの」である場合に限定したのです。
令和3年に新しく制定された法律で、国に土地を引き取ってもらう制度ができました(施行日は令和5年4月27日)。
法律の名前は、「相続土地国庫帰属法」(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)といい、導入された制度のことを「相続土地国庫帰属制度」といいます。
制度の概要は、将来「所有者不明土地」が発生することを防止するため、相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とするものです。
まず、国に対して引き取りを申請できる人は、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により、その土地の所有権の全部又は一部を取得した人です。
したがって、売買や贈与により土地を取得した人は相続土地国庫帰属制度を利用できません(後述の共有者の場合は例外として認められます)。
土地が共有であっても申請することは可能で、その場合には共有者全員で申請する必要があります。
なお、共有者の中に相続で土地を取得した人が1人でもいる場合には、他の共有者については相続により土地を取得したという要件は不要です。
次に、どんな土地でも申請できるわけではなく、次のような土地は、管理や処分をするに当たり多くの費用や労力が必要になるので引き取りの対象外となります。
(1)申請段階で却下となる土地
①建物がある土地
②担保権や使用収益権が設定されている土地
③他人の利用が予定されている土地
④特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2)該当すると判断された場合に不承認となる土地
①一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
②土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
③土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
④隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
⑤その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
さいごに、費用ですが、審査手数料として1筆当たり14,000円を国に納付する必要があります。
そして、法務局による審査で承認されると、宅地や田畑、森林など土地の種目に応じた負担金の支払いが必要です。
例えば、宅地や田畑の場合の負担金は面積に関わらず原則1筆ごとに20万円となります(住宅地だとかなり高額になります)。
ただし、同じ種目の土地が隣接していれば、負担金の合算の申出をすることができ、2筆以上でも負担金は20万円が基本となります(詳しくは政府広報オンラインなどで確認してください)。
祭祀承継者とは、祖先の祭祀を主宰し、系譜、祭具及び墳墓等の祭祀財産を承継する者のことです。
祭祀承継者をどうやって決めるかについては、民法上に規定があります。
民法897条では以下のように規定されています。
第1項 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
第2項 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
一見すると分かりにくいのですが、整理すると以下の順番で決まることになります。
①被相続人が指定した者
②被相続人の地域の慣習
③家庭裁判所の調停又は審判によって決定した者
上記①の指定は生前の指定でもいいし、遺言による指定でも構いません。
また、書面も口頭でも構いません。
もっとも、口頭での指定の場合、親族が揃っている場での指定であれば分かりやすいのですが、被相続人と祭祀承継者として指定された者の2人だけの場で指定されたと言っても証明は難しいでしょう。
上記②は文字どおり「地域の慣習」で決めるということですが、実際、「地域の慣習」が明確にある地域というのは限られているのではないでしょうか。
この条文の趣旨としては、明確な「慣習」がなくても「こういうものは長男がやるものだ」みたいな感じでなんとなく決まるならそれでいい、宗教的な問題についてあえて法律や裁判所が口出しすべきではない、というニュアンスを感じます。
上記③は、被相続人の指定もなく、「地域の慣習」もない(なんとなく決まらなかった)場合の最後の手段です。
通常は、まずは調停において相続人間で話し合いを行い、それでも決まらなかった場合には審判で決めることになります。
審判となった場合の裁判所の判断基準としては、被相続人との身分関係や生活関係、祭祀財産の承継の意思および能力、被相続人の考え(被相続人が生きていたら誰を指定するか)など一切の事情を総合して判断されます。
具体的には、東京高裁平成18年4月19日決定が、「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係,承継候補者と祭具等との間の場所的関係,祭具等の取得の目的や管理等の経緯,承継候補者の祭祀主宰の意思や能力,その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが,祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく,死者に対する慕情,愛情,感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから,被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって,被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち,他方,被相続人からみれば,同人が生存していたのであれば,おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」と述べているのが参考になります。
相続財産にはプラスの財産もマイナスの財産も含まれます(民法896条「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」)。
マイナスの財産とは典型的には借金です。
相続が起こったときには「プラスの財産とマイナスの財産を検討してマイナスの財産が多い場合は相続放棄をしましょう」というのはよく聞く話です。
親など近い親族が亡くなった場合、借金の存在は簡単に気づくことが多いです。普段から消費者金融の督促状が来ているとか、収入の額に見合わないほどギャンブルにのめり込んでいるなどの様子があれば、だいたい分かります。
しかし、連帯保証債務には注意が必要です。
例えば、長男が自宅を購入する際に住宅ローンを組み、父親が連帯保証人になったケースを考えてみましょう。
この場合、当然、長男はその事実を知っていますが、他のきょうだい(例えば二男)には知らされていないことがあります。
そのような場合でも、長男が順調に住宅ローンを支払っていれば父親の出番はなく、長男がローンを完済すれば父親の責任は何も残りません。
問題は、長男が住宅ローンの支払いを遅滞した場合です。
もし、父親が生存中であれば、債権者(銀行など)は父親に対してローンの支払いを請求します。
そうなると、家族の中でその件について話し合いが行われたりして、父親が連帯保証人であるという事実が顕在化します。
しかし、長男が順調に住宅ローンを支払っている最中に父親が亡くなり、その後相当期間が経過してから長男の住宅ローンの支払いが遅滞し、父親の連帯保証債務が顕在化することがあります。
その場合、突然、債権者から二男に対し「お兄様の住宅ローンの支払いが滞っています。亡くなられたお父様はお兄様の連帯保証人でしたので、あなたはお父様の連帯保証債務を相続しています。ですから支払ってください。」という通知が来ることになります。
そのような通知が来た場合には、相続放棄も視野に入れて検討しましょう。
もちろん、プラスの財産とマイナスの財産を比較してから結論を出すべきです。
そして、父親の死亡から3か月以上が経過している場合には慎重に手続きを進めるべきであり、専門家に相談することをお勧めします。
遺産分割調停において、遺産である不動産の時価が争いになる場合があります。
例えば、相続人が長男と二男の2人で、遺産の中に不動産が2物件あるような場合で(実家と別荘など)、1つの物件を長男が取得する予定で、もう1つの物件は誰も必要としていないので売却を考えている、というケースがあります。
このような場合、調停の当事者としては(上記の例の場合、長男も二男も双方とも)、売却を考えている物件のみ先に売ってしまって金額を確定したいと思うことがあります。
なぜなら、不動産の査定や鑑定を行っても、その結果出てきた数字は確実に「時価」であるとはいえず、結局のところ、不動産の時価というのは「実際に売れた額」だからです。
それでは、遺産分割調停の手続きの中で1つの物件を売却することはできるでしょうか。
上記の例で、長男と二男の双方とも、遺産分割調停の手続きの中で売却を希望する場合、当事者双方の意見が一致しているので、そのように話を進めてもいいようにも思えます。
しかしながら、結論としては、遺産分割手続きの中で「とりあえず1つの物件を売却する」ということはありません(少なくとも私の経験上、できたことはありません。)。
裁判所は常に多くの案件を抱えています。遺産分割調停の手続きの中で不動産を売却するとなると、売却が実現するまで調停が終わらないことになります。
裁判所としては調停の進行を中断させたまま長期間保留状態にするという余裕はないのです。
したがって、上記の例のような場合、「とりあえず売却」ということにはなりません。
では、どうするかというと、例えば、「実家は長男が取得する。実家の評価額は○○円とする。別荘は長男と二男が協力して売却し、売却価格から必要経費を控除した額を二男が取得する。長男は二男に対し、実家の評価額と二男の取得額の差額の2分の1に相当する額を代償金として支払う。」(実家の評価額が別荘の評価額より明らかに高額である場合)という調停条項で調停を成立させます。
調停の成立により、この案件は裁判所の手から離れます。
その後、長男と二男は協力して別荘を売却し、調停条項に従った処理を行うことになります。
法定相続分は民法で決まっているにもかかわらず、遺産分割で争いが生じるのは、ほとんどの場合に特別受益が絡んでいるからと言っても過言ではありません。
今回は、特別受益になるか否かについて裁判所がどのような判断基準で考えているかについて検討してみます。
その前に「必ず特別受益になるもの」について確認しておきます。
民法903条1項によると、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け」「た者があるときは」「その贈与の価額」を持ち戻すことになっています。
したがって、共同相続人に対する遺贈はその額や理由にかかわらず持戻しの対象になります。
また、死因贈与は、原則として遺贈に関する規定に従うことになっていますので(民法554条)、遺贈と同様に、金額や理由にかかわらず持戻しの対象となります。
さらに、「相続させる」旨の遺言の場合であっても、その結果は遺贈とほぼ同じですので、遺贈と同様に持ち戻し計算をすべきとされています(山口家裁萩支部平成6年3月28日審判、広島高裁岡山支部平成17年4月11日決定等)。
もっとも、「持戻し免除の意思表示」(民法903条3項)が認められる場合は別ですので、その点は注意が必要です。
それでは、「特別受益の判断基準」が問題となるケースを見ていきましょう。
民法903条1項によれば、「共同相続人中に、被相続人から」「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」「贈与を受けた者があるときは」「その贈与の価額」を持ち戻すことになっています。
「婚姻若しくは養子縁組のため」に該当するか否かについては、結婚式費用や結婚祝いなどがよく問題となります。
また、「生計の資本として」に該当するか否かについては、被相続人からの生活費の援助や被相続人名義の建物に無償で居住していた場合の賃料相当額などがよく問題となります。
これらについて、裁判所は、贈与の経緯や金額、被相続人の資産の規模などの諸事情を検討して、「遺産の前渡し」といえるかどうかという判断基準で判断しているようです。
すなわち、特別受益の制度趣旨が、一部の相続人に対して「遺産の前渡し」があった場合にその額を持ち戻すことによって相続人間の公平を図るというものであることからすれば、その趣旨に照らして「被相続人は遺産の前渡しのつもりで贈与したのか」という観点から考える必要があるのです。
そうすると、結婚式費用や結婚祝いは相場程度のものであれば「遺産の前渡し」とはいえないでしょう。
生活費の援助も扶養の範囲内程度のものであれば「遺産の前渡し」とはいえず、特別受益には該当しないことになります。
被相続人名義の建物に無償で居住していた場合の賃料相当額についても、被相続人としては「遺産の前渡し」というつもりで無償で居住させていたわけではないと考えられますので、特別受益には該当しないと思われます。
法律相談をしていると、「父親が亡くなったのだが、遺言書があるかどうか分からない」というような相談をよく受けます。
今回は、遺言書の有無を確認する方法について書いてみます。
遺言書は主要なものとして、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
まず、公正証書遺言については、平成元年以降に作成された公正証書遺言は、日本公証人連合会において、オンライン上で全国の公証役場で作成した遺言公正証書の情報が管理されています。
したがって、全国のどこの公証役場でも公正証書遺言の有無及び保管されている公証役場を検索することができます。
公正証書遺言が存在することが判明し、保管されている公証役場が分かれば、その公証役場に対して遺言書の謄本の交付を請求することができます(なお、原本の閲覧も可能です)。
もっとも、検索を申し出ることができるのは相続人等の利害関係人だけであり、遺言者が生存中は遺言者本人しか検索を申し出ることはできません。
次に自筆証書遺言ですが、遺言者が自筆証書遺言保管制度を利用した場合には、遺言者の死後、相続人等が法務局に問い合わせれば遺言書の存在を知ることができます(遺言書保管事実証明書の交付)。
遺言書が保管されていることが判明すれば、遺言書の内容を確認することもできます(遺言書の閲覧又は遺言書情報証明書の交付)。
しかし、自筆証書遺言を作成したが自筆証書遺言保管制度を利用していない場合には、遺言書の有無を確認することは容易ではありません。
例えば、家の中を探す、親しい人に尋ねる、銀行の貸金庫契約がある場合には貸金庫を開扉する等の方法が考えられますが、どれも確実とはいえません。
自分が亡くなった後に、遺言書があるかないか分からなくなってしまうことを防ぐためにも、遺言書を作成する場合には、公正証書で作成するか、自筆証書遺言保管制度を利用することをお勧めいたします。
特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、被相続人と特別の縁故があったことにより一定の財産を取得できる人のことです。
特別縁故者の制度趣旨としては次のように言われています。
新民法施行に伴い家督相続制度が廃止されたことにより、相続人の範囲が限定され(家督相続の場合、「第二種選定家督相続人」として、親族会が他人の中から家督相続人を決めることが可能でした。)、相続人が不存在となる事例が増えることになりました。
日本では遺言書を作成する習慣があまりなかったため、内縁の配偶者や事実上の養子など被相続人と特別の縁故関係がある者がいても、遺言書がなければ全く財産的保護を受けられないということになってしまいます。
そこで、遺言書がない場合であっても、そのような人に対して財産を取得させることが被相続人の意思にかなうのではないか、という趣旨から特別縁故者制度が設けられました。
特別縁故者の要件としては、①「被相続人と生計を同じくしていた者」、②「被相続人の療養看護に努めた者」、③「その他被相続人と特別の縁故があった者」との3つの類型が挙げられています(民法958条の2第1項)。
しかし、具体的な判断は家庭裁判所の裁量によって決められることになります。
上記①の類型では、例えば、30年以上にわたり、事実上の夫婦として内縁関係を結び生活を共にし、被相続人の死後はその葬儀を営み菩提を弔ってきた「内縁の妻」の審判例(東京家審昭和38年10月7日・家月16巻3号123頁)、被相続人を幼時は実父と信じ、成長後は養父として慕い、30年以上共同生活をしてきた「事実上の養子」の審判例(大阪家審昭和40年3月11日・家月17巻4号70頁)などがあります。
上記②の類型では、被相続人の老後の相談相手となり、心臓病を患った被相続人の看護を妻とともに尽くした「いとこの子」の審判例(鹿児島家審昭和38年11月2日・家月16巻4号158頁)などがあります。
上記③の類型では、被相続人の父親代わりの役目を果たし、相続財産の主要部分をなす不動産の購入について多大な尽力をするなどした「いとこ」の審判例(東京家審昭和60年11月19日・家月38巻6号35頁)、50年以上、師弟として交流し近隣に住み、よき相談相手・生活上の助言者として関わりを持ち、死亡の際には肉親以上の世話を続け死に水を取った「元教え子」の審判例(大阪家審昭和38年12月23日・家月16巻5号176頁)などがあります。
家庭裁判所が特別縁故者と認める判断基準としては、「民法958条の3は、特別縁故者の資格及び範囲を例示的に掲げたにとどまり、その間の順位に優劣はなく、家庭裁判所は、被相続人の意思を忖度、尊重し、被相続人と当該縁故者の自然的血縁関係の有無、法的血族関係に準ずる内縁関係の有無、生前における交際の程度、被相続人が精神的物質的に庇護恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度、その他諸般の事情を斟酌して分の許否及びその程度を決すべきである」(大阪高決昭和44年12月24日・判タ255号317頁)と判示した裁判例が参考になります。
なお、特別縁故者に関しては、「死後縁故が認められるか」という問題があります。
死後縁故とは、被相続人の生前に特別の縁故関係はなかったが、死後において、葬儀や祭祀を執り行い、供養を継続したり、相続財産を管理するなどした者を特別縁故者と認めることができるかという問題です。
この点について、審判例は肯定例と否定例がありますが、現在の実務はおおむね否定説に立っており、学説もほぼ否定説に立っています。
例えば、次のような相談があったとします。
「父親が亡くなりました。父親の遺産は一筆の土地と僅かな預金のみです。父の遺産である土地の上には兄名義の建物が建っています。兄は遺産分割で父名義の土地を取得することを希望しており、兄の言い分によると『土地の上に他人名義の建物が建っている場合、土地の市場価格は著しく低いので、俺が土地を取得し、お前(相談者)が預金を取得すれば遺産を公平に分けることになる。』とのことです。どうすればいいでしょうか。」
上記の例で果たして「兄」の言い分は正しいのでしょうか。
一般に、土地の上に他人名義の建物が建っている場合、土地の市場価格は低いと言われています。
その理由は、通常、そのような場合には、土地上に建物所有目的の「土地賃貸借契約」が設定されており、建物所有者が「借地権」を有しているからです。
具体的には、借地借家法の規定により、建物所有目的で「土地賃貸借契約」を締結した場合、借地権の存続期間は最低でも30年であり、借地権の存続期間が満了する場合でも、借地権者が契約の更新を請求すれば(建物がある場合には)原則として契約は更新されることになっており、例外的に契約が更新されない場合は極めて限定されています(借地借家法3条、5条、6条等)。
そのため、いったん、建物所有目的で「土地賃貸借契約」を締結してしまうと半永久的に土地を返してもらえないという状況が生じます。
このように、土地上に借地権を設定すると土地の利用が著しく制限されてしまうために土地所有者の所有権の価値(「底地」といいます。)が大幅に低下するのです。
ところが、冒頭の例では父親の土地上に兄が建物を建てているのですが、このような場合、通常、父親は土地を無償で兄に貸しています。
その場合の契約は「土地使用貸借契約」であって「土地賃貸借契約」ではありません。
したがって、兄は「借地権」を有しておらず、父親の土地の利用価値が著しく制約されることはありません。
また、冒頭の例では、父(被相続人)名義の土地上に兄名義の建物が建っており、兄が遺産分割で父名義の土地の取得を希望しているとのことですので、兄が希望どおりに遺産分割によって土地を取得すれば、兄は土地の所有者であり、かつ、建物の所有者でもある、という結果になります。
そうしますと、兄としては、自分の好きなタイミングで土地と建物をセットで売却することもできますし、建物を取り壊して、更地にして売却したり新しい建物を建設したりすることも自由にできます。
このように、兄が土地を取得した後には土地の利用についての制限はほとんど何もありません。
そう考えると、冒頭の例での兄の言い分は正しくないことが分かります。
相続の法律相談をしていると、「遺産の土地があるのですが、名義が共有名義になっています。共有だと評価額が低くなると聞いたのですが本当ですか?」という質問をよく受けます。
今回は、不動産の名義が共有の場合に評価額が下がる(共有減価)理由と、相続の場合に共有減価がどのように影響するかについて考えてみたいと思います。
そもそも、共有の場合に評価額が下がる理由ですが、単独所有であれば不動産を自由に使用・収益・処分を行うことができますが、共有持分である場合、様々な制約があります。
例えば共有物に変更を加えるには共有者全員の同意が必要ですし(民法251条1項)、共有物の管理(共有物を利用・改良すること)に関しては持分価格の過半数の同意が必要です(民法252条1項)。
このような制約があることにより共有持分は単独所有に比べて経済的価値が低いものとして扱われます。
これが「共有減価」と呼ばれるものです。一般には共有減価の割合は20~30%程度と言われています。
さて、今回のテーマである、「遺産の土地が共有名義の場合の共有減価」について考えてみましょう。
まず、ある土地につき被相続人と第三者との共有名義であった場合、被相続人の共有持分を評価するにあたっては、上記の共有減価の考え方が当てはまりますので土地の評価としては低く評価されることになります。
これに対して、土地の名義が被相続人と相続人の1人の共有名義となっている場合があります。
例えば、被相続人(父)の共有持分が2分の1、相続人(長男)の共有持分が2分の1というようなケースです。
このようなケースにおいて、長男が被相続人の共有持分を取得して、他の相続人(例えば二男)に対して価格賠償として金銭を支払うという分割方法があります(代償分割)。
この分割方法を採用する場合には、土地の共有持分の評価に関して共有減価はありません。
なぜなら、長男が被相続人の共有持分を取得することで土地の単独所有が実現し、前記の「共有物であることによる様々な制約」がなくなるため、共有減価を行う理由がないからです。
以上のように、遺産の土地が共有名義の場合の共有減価については、誰と誰の共有であるのか、遺産分割の結果、誰が取得することになるのか等によって異なってきますので注意が必要です。
今回は、遺言執行者が任務を行わない(任務懈怠)場合に取り得る方策について書いてみます。
一口に「遺言執行者が仕事をしない場合」といっても、「遺言書で遺言執行者として指定されているのに遺言執行者に就任しない場合」と「遺言執行者に就任したにもかかわらず、遺言執行者としての適切な任務を行わない場合」があります。
まず、「遺言書で遺言執行者として指定されているのに遺言執行者に就任しない場合」について。
実は、遺言書で遺言執行者として指名されている場合でも、必ず遺言執行者に就任しなければいけないという義務はありません。遺言執行者の就任を拒否することもできるのです。
一般的に、遺言執行者として指名された人が遺言執行者への就任を承諾した場合には、相続人に対して「遺言執行者就任通知書」を送付します。
その際には、「遺言の内容」を通知しなければならず(民法1007条2項)、通常は遺言書のコピーを同封します。
仮に、遺言執行者として指名された人から一向に「遺言執行者就任通知書」が届かない場合はどうすればよいでしょうか。
このような場合に備えて法律は手立てを用意しています。
民法1008条は「相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。」と規定しています。
つまり、遺言執行者として指定された人に対して「あなたは遺言執行者に就職(就任)するのですか。しないのですか。はっきりしてください。」という催告を行って、期間内に明確な回答がなければ遺言執行者に就任したことになるのです(もちろん、就任を拒否する旨を回答すれば就任しないことになります。)。
(遺言執行者に就任したことになったにもかかわらず仕事をしない場合は後述の流れになります。)
次に、「遺言執行者に就任したにもかかわらず、遺言執行者としての適切な任務を行わない場合」について。
この場合には、遺言執行者の解任を検討することになります。
遺言執行者の解任については民法1019条1項に規定があり、「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。」とされています。
条文をよく読むと分かりますが、「利害関係人」(相続人等)ができるのは「解任を家庭裁判所に請求すること」です。
「利害関係人」が「解任すること」はできません。
そして、請求を受けた家庭裁判所が審理した上で解任するか否かを判断します。
その際の判断基準は、遺言執行者が「任務を怠った」といえる場合や解任するについて「正当な事由」がある場合、ということになります。
実際にどの程度の任務懈怠等があれば解任されるかについては何ともいえません。裁判実務では諸事情を全体的に考慮して判断しているようです。
先日の法律相談で、「先日、父が亡くなりました。父は兄の職場の身元保証人になっているのですが、身元保証人の責任を背負わないためには相続放棄をしたほうがいいのでしょうか。」という相談を受けました。
そこで、今回は、身元保証人の地位(責任)を相続人が承継するかについて書いてみたいと思います。
身元保証とは、ある人が会社に就職する際に、将来、その人が不法行為を行ったりして会社に損害をかけた場合に発生する損害賠償責任を保証する契約です。
身元保証契約は、責任が生じる期間や損害賠償の金額が不明確で抽象的であり、場合によっては莫大な責任が生じうるという特徴があります。
そのため、身元保証人を保護することを目的として、昭和8年に「身元保証ニ関スル法律」(身元保証法。古い法律なのでカタカナが使われています。)が制定されました。
身元保証法では、身元保証契約の期間制限(原則5年。ただし更新は可能。)や裁判所が身元保証人の損害賠償の額を決めるときには様々な事情を考慮できること(それにより身元保証人の責任を限定することが可能)などが定められています。
しかし、身元保証法には身元保証人の地位(責任)が相続されるか否かについての規定はありません。
法律に規定がない場合、法律の解釈や裁判所の判例が重要になってきます。
まず、民法の相続の規定を見てみますと、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と規定されています(民法896条)。
保証債務は本来、上記の「一切の」「義務」に含まれますので、身元保証債務が「一身に専属したもの」といえるかどうかの解釈の問題になります。
この点、判例では、身元保証債務は保証人の責任の及ぶ範囲が広範であり、被用者と保証人の間の信頼関係を基礎とするものであって専属的性質を有しているとして、特別の事情がない限り身元保証人の死亡によって消滅し、相続人によって承継されないとされています(大審院昭和2年7月4日判決、大審院昭和18年9月10日判決)。
もっとも、従業員が実際に会社に損害を与えて損害賠償義務が発生した後に身元保証人が亡くなった場合には、身元保証人の相続人は損害賠償義務を相続します(大審院昭和10年11月29日判決)。
なぜなら、この場合、身元保証人は具体的な損害賠償義務としての金銭債務を負っており、それは「金額が不明確な抽象的な債務」ではなく、通常の金銭債務と異ならないからです。
相続案件を扱っていると、しばしば、「被相続人の生前に生活費を援助するなどして被相続人に対する扶養料を立て替えたので、その一部を他の相続人に請求したい。」という相談を受けます。
まず、扶養義務者が複数いる場合に、1人の扶養義務者が扶養権利者(「要扶養者」ともいいます。)のために支出した扶養料の一部を他の扶養義務者に求償できるかという問題があります。
この点は一般に過去の扶養料の求償は可能であると解されており、その旨を明言する高裁決定があります(東京高裁昭和61年9月10日決定)。
また、後述の最高裁判決も求償が可能であることを前提とした判示をしています。
次に問題となるのは、過去の扶養料の求償を行う場合に民事裁判所で行うのか家庭裁判所で行うのかという点です。
この点について、最高裁は「民法878条・879条によれば、扶養義務者が複数である場合に各人の扶養義務の分担の割合は、協議が整わないかぎり、家庭判所が審判によって定めるべきである。扶養義務者の一人のみが扶養権利者を扶養してきた場合に、過去の扶養料を他の扶養義務者に求償する場合においても同様であって、各自の分但額は、協議が整わないかぎり、家庭裁判所が、各自の資力その他一切の事情を考慮して審判で決定すべきであって、 通常裁判所が判決手続で判定すべきではないと解するのが相当である。」と述べています(最高裁昭和42年2月17日判決)。
したがって、過去の扶養料の一部を他の扶養義務者に対して請求する場合、民事訴訟ではなく家庭裁判所において調停又は審判を行う必要があります(もちろん、当事者間で合意が形成できれば裁判所に行く必要はありません。)。
そして、扶養権利者(要扶養者)が死亡している場合でも上記最高裁判決の論理は同じであると判示した裁判例があります(東京地裁平成6年1月17日判決)。
これらの裁判例からすれば、相続人の1人が被相続人を扶養したとして他の扶養義務者である相続人に対して過去の扶養料を請求することは可能であるが、その請求は民事裁判所ではなく家庭裁判所で行う必要があるということになります。
今回は、「特別受益の評価基準時」がテーマです。
「特別受益の評価基準時」は極めて専門的な問題です。
特別受益があると、相続開始の時において有した財産の価額に生前贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、各共同相続人の相続分を算定することになります。
この場合に、「財産の価額」に加える「贈与の価額」はいつの時点での評価額を指すのでしょうか。
これが「特別受益の評価基準時」と呼ばれている問題です。
考え方としては、①贈与時基準説、②相続開始時基準説、③遺産分割時基準説の3つがありえます。
しばしば、相談者の方は「被相続人の生前に兄はマンションを買ってもらっています。当時、新築でしたから3000万円くらいの価値だったと思います。そうすると特別受益は3000万円ということになりますよね?」という感じで、①の贈与時基準説を想定している場合があります。
これは極めて素朴な考え方であり、実際、ドイツ民法とフランス民法は①の贈与時基準説を採用しています。
しかし、日本では②の相続開始時基準説が通説であり、多数の裁判例も相続開始時基準説に従っています。
相続開始時基準説によると、上記の例では、贈与当時3000万円の価値があったとしても相続開始時の価値が2000万円であれば特別受益の価額は2000万円となります。
通説や裁判例が相続開始時基準説を採用する理由としては、民法903条と904条に「相続開始の時」という文言があるから、とか、905条1項や909条ただし書により各共同相続人は遺産分割前に相続分を譲渡することが許されているから各共同相続人の具体的相続分は相続開始と同時に確定していなければ不合理であるから、などと言われています。
個人的には全くすっきりしない理由です。
すっきりしませんが、日本での通説であり裁判例でも多数派なので、これに従うしかないでしょう。
また、金銭の贈与の場合の特別受益の評価に関しては、相続開始時の貨幣価値に換算して評価するとされています(最高裁昭和51年3月18日判決)。
その理由としては、昭和40年の現金100万円と現在の現金100万円とでは購買力に差があるのだから貨幣価値の変動を考慮するのが合理的だ、などと言われています。
この理由も余りすっきりしません。
確かに、昭和40年に100万円あれば高級車を購入できました。
現在の100万円では高級車は購入できません。購買力に差があるのは間違いないでしょう。
しかし、昭和40年に相続人が被相続人より100万円の高級車を贈与してもらっていた場合、特別受益の評価は「その高級車」の相続開始時の価額となります。
プレミアがついて価値が上がっているような場合でなければ、おそらく価値はゼロ円です(通常であれば廃車になっているでしょう。)。
この点は、特別受益の評価基準時を贈与時と考えるか相続開始時と考えるかという最初の話と関連します。
前記のとおり、特別受益の評価基準時は相続開始時とされていますから、贈与時に100万円であった高級車は相続開始時にはゼロ円と評価されます。
このことが話をややこしくする原因にもなっています。
昭和40年に現金で100万円をもらった相続人は現在の貨幣価値に換算して(例えば)500万円の特別受益があると評価され、100万円の高級車をもらった相続人は特別受益がないと評価されるのです。
仮に、長男は昭和40年に100万円を現金でもらい、その直後に100万円の高級車を購入したが、二男は昭和40年に100万円の高級車を買ってもらった場合、長男の特別受益は500万円(仮の数字です)で、二男は特別受益なしです。
果たしてこの結果は合理的なのでしょうか?
このように納得しがたい点は大いにあるのですが、最高裁の判例がある以上、当面はこの見解に従うしかないでしょう。
今回は、平成30年相続法改正で新設された遺言書保管制度について考察してみます。
遺言書保管制度とは、法務局で自筆の遺言書を保管してくれる制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。
遺言者は法務局に民法968条に定める方式(自筆証書方式)による遺言書の保管を申請することができます。
遺言書の保管が申請された場合、法務局の事務官が、本人確認を行い、自筆証書遺言の形式を満たしているかについて外形的に確認して、問題がなければ遺言書を法務局で保管します。
これにより、遺言書の形式的要件のミスを防止できますし、遺言書の紛失、変造、隠匿等も防止することができます。
ただし、遺言書を法務局が保管していることを相続人等が知らなければ、せっかくの遺言が無意味になってしまいます。
そのため、法律では様々な工夫を用意しています。
例えば、遺言者の死後、相続人等は法務局に問い合わせて、被相続人の遺言書を保管しているかどうかを確認することができます(遺言書保管事実証明書の交付)。
その結果、遺言書が保管されていることが判明すれば、遺言書の内容を確認することができます(遺言書の閲覧又は遺言書情報証明書の交付)。
また、遺言者が遺言書保管制度を利用していることを相続人等に気づいてもらうために、遺言者が希望すれば、遺言者が死亡した場合に、予め遺言者が指定した者(3名まで指定可能)に対して遺言書が保管されている旨を通知する制度があります(「死亡時通知」又は「指定者通知」ともいう)。
この制度を利用すれば、遺言者が相続人等の誰にも遺言書の存在を知らせていなかった場合であっても、遺言書が発見されないまま相続手続きが進められてしまうことを防ぐことができます。
その他、遺言者の死亡後に、相続人等が、遺言書の閲覧をした場合や、遺言書情報証明書の交付を受けた場合には、遺言書が保管されている旨を全ての相続人、受遺者及び遺言執行者に対して通知します(「関係遺言書保管通知」)。
この制度により、相続人の1人が他の相続人に黙って遺言を執行してしまうようなことを防止することができます。
なお、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が不要です。
このように、遺言書保管制度は、遺言書の形式面のチェックをしてもらえるので安心できますし(内容についてのチェックはありませんが、少なくとも形式不備による無効を防止できます。)、紛失や変造を防止でき、遺言者が死亡した後に遺言書の存在に気づかれないことを防止する工夫も用意されています。
そして、家庭裁判所の検認手続も不要ですので、手続き面での負担も小さいと思います。
以上より、遺言書保管制度は非常に使いやすく便利な制度だと思います。
平成30年相続法改正で新設された配偶者居住権について考察してみました。
配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、亡くなるまで(または一定の期間)無償で居住することができる権利です(民法1028条)。
まず、配偶者所有権の成立要件をみてみましょう。少し複雑です(民法1028条1項)。
以下の①~③を全て満たす必要があります。
①配偶者が相続開始時に被相続人の所有する建物に居住していたこと
②相続開始時に被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していないこと
③以下のいずれかに該当すること
(ア)遺産の分割により配偶者居住権を取得するものとされたこと(民法1028条1項1号)
(イ)配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと(民法1028条1項2号)
(ウ)配偶者居住権が死因贈与の目的とされたこと(民法554条)
上記の③(ア)については、遺産分割協議又は調停で共同相続人全員が配偶者居住権の取得について合意した場合か、遺産分割審判で配偶者居住権が認められた場合ということになります。
そして、遺産分割審判において配偶者居住権が認められるための要件は、
ⅰ)共同相続人全員が配偶者居住権の取得に合意しているとき
又は
ⅱ) 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有権の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき
となっています(民法1029条)。
配偶者居住権の存続期間は、原則、配偶者の終身であり(民法1030条本文)、例外として終身ではない存続期間を定めることも可能です(民法1030条但書)。
上記を前提に、配偶者居住権の意義を考察してみます。
配偶者居住権が制定された理由は、いうまでもなく、残された配偶者が長年住み慣れた家を離れることなく居住し続けることを可能とするためです。
もし、仲の良い家族であれば、遺産分割において、仮に子どもが自宅(実家)を相続することになったとしても、配偶者(子からみれば親)が自宅に無償で住み続けることを許すでしょう。
決して「所有権」という権利を振り回して親を追い出すようなことはしないでしょう。
そうであれば、わざわざ「配偶者居住権」などという権利を設定しなくても問題はありません。
他方で、仲の悪い家族であれば、自宅(実家)を相続することになる子どもが配偶者(親)を追い出そうとするかも知れません。
そのようなときこそ配偶者居住権の出番なのですが、前記の成立要件のところでみたように、基本的に「共同相続人全員が合意」しなければ配偶者居住権は成立しません。親を追い出そうと企んでいる子どもが「合意」するとは思えません。
例外的に審判で配偶者居住権が成立する場合もありますが、その要件は前記のとおり「配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有権の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」ですので、かなり厳格です。
配偶者居住権の制度はまだ始まって間がないので、裁判所がどのような運用を行うかは分かりませんが、「生活を維持するために特に必要」な場合というのはあまり想定できないのではないでしょうか。
また、(家族の仲が悪い場合に)遺言において配偶者居住権を設定することは一応有効です。
しかし、子どもが親を追い出すことが心配なのであれば、子どもに所有権を相続させつつ、その負担として配偶者を無償で居住させることを定めておけば(負担付遺贈)、配偶者居住権を設定しなくても配偶者は自宅での居住を続けることができます。
このように考えると、平成30年相続法改正の目玉として創設された配偶者居住権ですが、それほど大きな意義があるとは正直思えません。
法律相談をしていると、ときどき、被相続人名義の建物に長期間(例えば20年以上)住み続けているという人が、「もう20年も住んでいるので時効じゃないですか?遺産分割しないといけないのですか?」と聞いてくることがあります。
今回は、遺産分割を行わないまま長期間被相続人名義の建物に住み続けた場合に時効によりその建物(あるいは建物とその敷地)の所有権を取得できるかについて検討してみたいと思います。
時効制度の趣旨としては、一般的に以下の3つが挙げられています。
①一定の事実状態が永続するときは、社会はこれを正当なものと信頼し、それを基礎として種々の法律関係が築かれる。これを覆して正当な権利関係に引き戻すことは、その上に築き上げられた社会の法律関係を覆すことになってしまい、社会の法律関係の安定を害することになる。
②時間の経過により証拠が散逸してしまい、正当な法律関係に合致するかどうかを証拠によって判断することが困難になる。
③仮に真実に反しているとしても、長年の間自分の権利を主張しなかった者は「権利の上に眠る者」として法律の保護に値しない。
そして、民法上、取得時効が認められるための要件としては、20年間(または10年間)、「所有の意思」をもって「平穏」かつ「公然」に他人の物を占有した者はその所有権を取得する、とされています(民法162条1項2項)。
20年か10年かの違いは、占有開始の時に「善意・無過失」であれば10年、そうでなければ20年です。
「平穏」とは暴行や脅迫によらずに占有を開始すること、 「公然」とは真正の権利者に対して占有の事実を隠蔽していないことをいいます。
「善意・無過失」とは、自分が占有する物が自分の所有物であると信じ、かつ、そう信じるについて過失がないことをいいます。
本件の設例との関係では、「所有の意思」がもっとも重要です。
「所有の意思」とは、「所有者と同じような支配を行おうとする意思」などと説明されることがありますが、「その意思の有無は占有を生じさせた原因たる事実の性質によって客観的に決まる」とされています。
したがって、建物を賃借している人が長期間その建物に住み続けても、そもそも「賃貸借」を原因として占有を開始しているので「所有の意思」があるとはいえず、時効によって建物の所有権を取得することはできません。
相続の場合も、被相続人の財産は相続人の共有となるので、「相続人の共有財産を1人で使っている」ことになり、原則として「所有の意思」は認められません。
また、「占有を生じさせた原因たる事実の性質」という観点から見た場合、最高裁平成8年12月17日判決が参考になります。
同判決は、被相続人が生前、相続人が建物へ居住することを許していたのであれば、遺産分割が終了するまでの間は、その相続人が無償で建物を使用することを認めている(そのような内容の使用貸借契約が成立している)との考え方を示しています。
この考え方に従えば、「占有を生じさせた原因たる事実」は「使用貸借」ですから、客観的に「借りている」状態であり、「所有の意思」は認められないことになります。
ただし、判例は、共同相続人の1人が他に共同相続人がいることを知らないために単独の相続権があると信じて不動産の占有を始めた場合などの「合理的な事由」がある場合には例外的に取得時効を認めています(最高裁昭和47年9月8日判決、最高裁昭和54年4月17日判決)。
寄与分とは、共同相続人中に被相続人の財産の維持又は増加に「特別の寄与」をした者(寄与者)がいる場合に相続人間の公平をはかるための制度です(民法904条の2)。
具体的には、相続財産から寄与者の寄与分を控除したものを相続財産とみなして相続分を算定し、算定された相続分に寄与分を加えた額が寄与者の相続分となります。
結果的に、寄与者は他の相続人より多く相続財産を取得することができます。
それでは、遺言書がある場合、寄与分はどのように扱われるのでしょうか。
民法では「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできない。」と規定されています(民法904条の2第3項)。
どういうことかといいますと、例えば、被相続人の遺産として「不動産甲(時価5000万円)、不動産乙(時価3000万円)、預金(2000万円)、その他(時価50万円)」があったとします(遺産総額1億50万円)。
相続人は、長男、二男、三男の3人とします。
被相続人は遺言書を残しており、遺言書には「長男には不動産甲を相続させる。二男には不動産乙を相続させる。三男には預金を相続させる。」と記載されていたとします。
この場合、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」は1億50万円で、「遺贈の価額」は1億円です。
つまり、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額」は50万円です。
そして、「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできない」ので、寄与分として主張できる額は最大50万円です。
仮に、三男が「自分は被相続人の遺産の増加に3000万円分寄与したので寄与分を主張したい」と言っても、三男が主張できる寄与分の最大額は50万円です。
これが、俗に「遺贈は寄与分に優先する」と呼ばれているものです。遺贈の「残り分」にしか寄与分を主張することはできないのです(また、主張したからといって必ず通るものでもありません。)。
更に言えば、上記の例で、遺言書の最後に「上記記載の財産以外の財産については長男に相続させる」との記載があれば、全ての遺産が「遺贈された」ことになり、寄与分として主張できる額は残りません(ゼロです)。
なぜ民法がこのような規定を設けたのかを私なりに考えてみたのですが、おそらく、次のような趣旨ではないかと思います。
すなわち、実際に三男が被相続人の財産の増加に寄与しており、被相続人が三男に感謝しているのであれば、被相続人は遺言書を作成するときに三男に多く遺産を遺すような書き方をするのではないでしょうか。
被相続人が、そのような書き方をしなかったということは、被相続人としては三男の貢献を評価していない(あるいは評価をしていたとしても別の理由により三男の取り分を少なくした)ということなのでしょう。
そうだとすると、そこに被相続人の評価や意思が表れているのであるから、被相続人の意思を尊重すべきということなのだと思います。
例えば、父親(被相続人)に長男と二男がいたとします(被相続人に配偶者はいないものとします)。
父親は「自宅を長男に相続させる」との遺言書を作成しました。
ところが、長男が被相続人より先に死亡してしまいました。
この場合、上記の遺言書によって長男の子は代襲相続人として自宅を相続できるのでしょうか。
代襲相続とは、被相続人の子が相続開始以前に死亡している場合、その者の子がこれを代襲して相続人となる制度です(民法887条2項本文)。
代襲相続の制度が遺言の場合にも適用されるのかという問題です。
下級審の裁判例は、代襲相続否定説(当該遺言部分は効力を有しない)を採るものが多かったところ(札幌高裁昭和61年3月17日判決、東京高裁平成11年5月18日判決等)、他方で代襲相続肯定説を採るものもあり(東京高裁平成18年6月29日判決)、判断が分かれていました。
この点について、最高裁平成23年2月22日判決は、「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じることはないと解するのが相当である。」と判示し、原則として代襲相続否定説の立場を採ることを明らかにしました。
つまり、上記の例でいえば、「自宅を長男に相続させる」との遺言部分は効力を有しないため、長男の子は遺言の効力として自宅を代襲相続することはできず、自宅を誰が取得するかについては二男と長男の子(代襲相続人であることに変わりはない)とで遺産分割協議を行うことになります。
「財産を全て任せる」との文言は、それだけでは財産を全て遺贈する趣旨なのか、遺産に関する手続を全て依頼する趣旨なのか不明です。
遺言の解釈をどのように行うべきかについて、最高裁の判例では「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものである」と述べられています(最高裁昭和58年3月18日判決)。
よって、「財産を全て任せる」との遺言の場合、被相続人と各相続人との交際状況、被相続人と受遺者との関係等を考慮した上で、被相続人が受遺者に全財産を遺贈し、他の相続人に一切財産を相続させないという意思が肯定できるような具体的事情があるかどうかを検討して、被相続人の真意を探究していくことになります。
下級審の裁判例では、「財産を全て任せる」との趣旨の記載のある遺言について、遺贈を否定した裁判例(東京高裁昭和61年6月18日判決)と遺贈を肯定した裁判例(大阪高裁平成25年9月5日判決)に分かれています。
被相続人の子が相続開始以前に死亡している場合、その者の子がこれを代襲して相続人となります(民法887条2項本文)。
もっとも、「被相続人の直系卑属でない者」は代襲相続人になりません(民法887条2項但書)。
養子の子が養親の代襲相続人になれるか否かについては、養子縁組をした日と養子の子が出生した日の前後によって結論が異なります。
まず、養子縁組後に養子の子として出生した者は、養子が養親の嫡出子としての身分を取得して(民法809条)養親との間において法定血族関係を生じた後に(民法727条)養子の嫡出子となった者なので、養子を通じて養親と法定血族関係を生じます。
したがって、養子縁組後に生まれた養子の子は養親の直系卑属にあたり、代襲相続人になります。
しかし、養子縁組前に養子の子として出生していた者(いわゆる連れ子)は養親と血族関係が生じないと解されており、養親の直系卑属にはあたりません。
したがって、養子縁組前に生まれた養子の子は代襲相続人になりません。
もっとも、養子縁組前に生まれた養子の子であっても養親の直系卑属であることがあり、代襲相続人になるためには、被相続人の直系卑属であればよく、必ずしも被代襲者を通じて養親(被相続人)の直系卑属であることまで要求されるものではないと判示する裁判例もあります(大阪高裁平成元年8月10日判決)。
「相続は、死亡によって開始する。」(民法882条)とされています。
そして、相続開始時に相続人は存在していなければならないという原則を「相続における同時存在の原則」といいます。
もっとも、この「同時存在の原則」には例外があります。
それは胎児の場合です。
民法886条1項では、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」と規定されています。
胎児は本来、権利の主体とはなりえない(民法3条)のですが、相続については例外として権利の主体として存在しているとみなします。
さて、「同時死亡の推定」とは、「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。」(民法32条の2)というものです。
たとえば、同一の交通事故で親と子が死亡したが、どちらが先に死亡したかわからないという場合、「同時死亡の推定」により、親と子は同時に死んだものと推定されます。
このような場合、上記の「相続における同時存在の原則」との関係で考えると、「親」の死亡時に「子」は存在していない(同時に死亡しているので)ことになりますし、「子」の死亡時にも「親」は存在していない(同時に死亡しているので)ことになります。
したがって、「相続における同時存在の原則」を満たさないので、「親」から「子」に対しても、「子」から「親」に対しても(本来であれば子から親への相続が起きる場合でも)、相続が発生しないことになります。
使途不明金(使い込み)の相談は多いのですが、今回は、相続開始後に引き出された預貯金が法律上、どのように扱われるかについて書いてみたいと思います。
相続開始後(被相続人が亡くなった後)に相続人の1人が被相続人名義の預貯金を引き出して処分した場合、平成30年民法改正の前後で扱いが異なります。
改正後の民法が適用される場合(被相続人が令和元年7月1日以降に死亡した場合)の取り扱いは以下のとおりです。
預貯金を引き出した相続人以外の相続人全員の同意により(引き出した相続人の同意は不要)、 引き出した預貯金を遺産として存在するものとみなすことができますので(民法906条の2)、実質的に預金を取り戻した形で遺産分割調停または審判により解決することが可能です。
ただし、相続人が「預貯金を引き出した事実」を認めない場合には従来どおり民事訴訟で解決するしかありません。
改正後の民法が適用されない場合(被相続人が令和元年7月1日より以前に死亡した場合)の取り扱いは以下のとおりです。
預貯金を引き出した相続人が金銭を費消又は領得(いわゆる使い込み)をしている場合には、他の相続人は不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいて預貯金を引き出した相続人に対して返還請求を行うことが可能です。
この場合に預貯金を引き出した相続人が使い込みを認めない場合は(遺産分割調停・審判ではなく)民事訴訟で争うことになります(コラム「なぜ使途不明金は家庭裁判所で判断できないのか」参照)。
もっとも、預貯金を引き出した相続人が被相続人のために正当に金銭を使った場合(相続債務の支払い・遺産である不動産の固定資産税の支払い等)には不当利得や不法行為とはいえませんので、取り戻すことはできません。
これまでに特別受益の話は何度もしてきましたが、今回は「持戻し免除の意思表示」の話です。
民法903条1項に該当する贈与(特別受益)があった場合、原則として遺産分割のときに「持戻し」を行うことになります。
ただし、被相続人が特別受益を遺産分割において持ち戻す必要がない旨を明示又は黙示に意思表示をしていれば、持戻し計算をする必要はありません(同法903条3項)。
この意思表示を「持戻し免除の意思表示」といいます。
本来、特別受益の制度は「遺産の前渡し」として、被相続人が生前に贈与した場合に、死後の遺産分割において公平のために修正するための制度です。
しかし、贈与を行った被相続人が遺産分割時の修正を望んでおらず、特別受益分をその者の特別な取り分として与える意思である場合には、その意思を尊重するためのものです。
持戻し免除の意思表示は明示でも黙示でもよいとされていますが、黙示の意思表示が認めるには慎重な判断が必要です。
判断の基準としては、「被相続人が特定の相続人に対して相続分以上に財産を相続させる意思を有していたか」という観点が重要になります。
一般には、次のような場合には黙示の持戻し免除の意思表示が認められやすいと言われています。
①家業である農業を承継させるため、特定の相続人に対して、相続分以外に農地などの財産を相続させる必要がある場合
②被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合
③病気などの理由により特定の相続人が独立した生計を営むことが困難な場合
④相続人全員に贈与をしている場合
裁判例としては、被相続人が妻に対して被相続人の土地の一部の使用を許諾するとともに、妻が当該土地上に建物を建築するにつき建築費の一部を贈与した事案で、「民法903条第1項の特別受益に該当するが、被相続人は、その後死亡までの約9年間、右相手方の建築した地上建物に同人と夫婦として同居生活を送り、主として同人が右建物で営む飲屋の収入によって生活を維持していたものであって、このように、右相手方が贈与を受けた財産を基礎として、被相続人自身の生活に寄与してきた事情からすれば、被相続人としては、遅くとも相続開始の前頃には、右生前贈与をもって、相続分の前渡しとして相続財産に算入すべきものとする意思は有していなかったものとみることができ、したがって、特段の反証のないかぎり、被相続人は、相手方に対し黙示に右特別受益の持戻し免除の意思表示をしたものと推認するのが相当」と判示したものがあります(東京高裁昭和57年3月16日決定)。
遺産分割で相続人間において争いがあるときに、使途不明金の話が出てくることがよくあります。
例えば、「兄が亡母親の通帳や印鑑を管理していたので、母親の生前に兄は母親に無断でお金を引き出していたと思う。使い途がはっきりしない出金は納得いかないので、遺産分割をする際に返してほしい。」というような相談です。
このような場合、話し合いで解決できるのであれば、「遺産分割」と「使途不明金」を同時に解決することはもちろん問題ありません。
ただし、弁護士のところまで相談に来ているということは、相続人間で見解の相違があるということです。話し合いを行っても、相手から「使途不明金など存在しないので、お金を返すつもりはない。」と言われるケースがほとんどです。
したがって、このようなケースでは、おおむね遺産分割調停を申し立てることになりますが(使途不明金について合意に至らないのに遺産分割のみが話し合いで解決することはまずありません。)、遺産分割調停においては、相手が「使途不明金についてもこの調停で同時に解決したい。」との意思を表示しない限り、遺産分割調停で使途不明金の話を進めることはできません。
そして、たいていの場合、相手は「使途不明金など存在しない。」という姿勢ですので、「使途不明金についても調停で同時に解決したい。」と言うはずがありません。
そうなると、使途不明金については家庭裁判所では解決できず、民事訴訟(地方裁判所または簡易裁判所)で解決する必要があります。
では、どうして使途不明金については家庭裁判所で解決できず、民事訴訟を提起する必要があるのでしょうか。
この話をするためには、「そもそも家庭裁判所は何のためにあるのか」から説明しなければなりません。
本来、裁判は公開の法廷で行わなければなりません(日本国憲法82条)。その理由は、密室で裁判が行われると国民が裁判を監視することができず、公正な裁判を保障することができないからです。
そのため、刑事裁判も民事裁判も公開の法廷で行われるのが原則です。
しかし、家族の問題についてまで公開の法廷で裁判しないといけないというのはプライバシー保護の観点から望ましくありません。
そのため、家族間や親族間の紛争は非公開の手続きを中心とする家庭裁判所で解決することになっているのです(その他、少年事件も家庭裁判所で扱われます。)。
上記を前提にして考えると、遺産分割というのは被相続人の遺産を相続人間でどのようにして振り分けるかという親族間の調整の問題ですから(権利の有無が問題なのではない。)家庭裁判所で解決するにふさわしいテーマです。
これに対して、使途不明金の問題は単なる調整の問題ではなく、「不当利得」または「不法行為」によって他人の財産を領得(侵害)したか否かという権利義務に関する紛争です(不当利得が存在すれば不当利得返還請求権という権利が存在することになり、不法行為が存在すれば損害賠償請求権という権利が存在することになります。)。
このような権利義務に関する紛争は(たとえ親族間であっても)原則に戻って公開法廷で行う必要があり、家庭裁判所では扱えないことになっています。
このような理由から、使途不明金は民事訴訟で解決する必要があるのです。
先日のコラムで、「金銭債権等は可分債権であるので、各相続人の相続分に応じて当然に分割帰属する」という話をしましたが、これに関連して、平成28年12月19日の最高裁判決は極めて重要ですので、今回は同判決について書きます。
同判決は、複数の相続人がいる普通預金の取扱いについて、過去の判例を変更いたしました。
以前の最高裁判例は、銀行の普通口座にある預金について、可分債権であることから相続開始と同時に各相続人の法定相続分に応じて当然に分割取得されるとの判断を示していました(最高裁昭和29年4月8日判決・先日のコラムを参照)。
ところが、平成28年12月19日の最高裁判決は昭和29年4月8日の判決を変更し、「預貯金は遺産分割の対象となる」との判断を示しました。
すなわち、以前の判例では、被相続人の普通預金について、可分債権であることを理由に、法定相続分について当然に分割されて各相続人に帰属することになるため、家庭裁判所における遺産分割審判で「遺産分割の対象」とすることはできない、とされていたのが、「遺産分割の対象」として遺産分割審判において判断することが可能になりました。
別の言い方をすると、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判などで預金債権の取得者を決めない限り、金融機関に対して預金の払戻しを請求できないということになります。
最高裁判所は判断の理由として、①預貯金は現金のように評価についての不確定要素が少なく(預貯金額そのものが時価といえる)、具体的な遺産分割の方法を定める際の調整に資すること、②預貯金は解約されない限り相続開始後も残高が変動し得るものであるあるから、各共同相続人に確定額の債権として分割することはないと考えられること、などを挙げています。
なお、上記最高裁判所の判断の対象は普通預金、通常貯金及び定期貯金でしたが、その後、最高裁判所は定期預金と定期積金についても同様の判断を示しました(最高裁平成29年4月6日判決)。
相続案件を扱っていると、しばしば被相続人の貸金が問題になります。例えば、被相続人が知人や相続人にお金を貸していた場合があります。
このような場合、被相続人は「貸付金」という債権を保有していたことになります。このような「貸付金」は「遺産」に含まれるのでしょうか。
「貸付金」が「遺産」に含まれるか否かという話をするためには、その前提として「遺産」の定義は何か、という話が必要になってきます。
「遺産」というのは、民法896条の「相続財産」とほぼ同義であり、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」のうち「被相続人の一身に専属したもの」以外のものです。
そして、「貸付金」は被相続人の財産に属した権利であり、一身専属上の権利ではないので、「相続財産」に含まれます。
「相続財産」に含まれるということは、「相続人」が「承継」することになります(民法896条)。
その意味では、「貸付金」は「遺産」(≒相続財産)です。
ただし、「遺産」を「遺産分割の対象となる財産」という意味で用いる場合には注意が必要です。
「遺産分割の対象となる財産」というのは、家庭裁判所で「遺産」として取り扱い、最終的に審判においてその帰属(相続人のうち誰が取得するか)を決めることになる財産のことです。
「遺産」をこの意味で用いる場合、「貸付金」は「遺産」ではないことになります。
すなわち、家庭裁判所で遺産分割の審判がなされる場合、「貸付金」は審判の対象にはなりません。
「貸付金」は「遺産分割の対象となる財産」ではないのです。
家庭裁判所においてこのような運用が行われているのは、昭和29年4月8日の最高裁判決が確立した判例となっているからです。
同判決は、金銭債権などの可分債権(分けることが可能な債権)は遺産分割を行わなくても相続開始と同時に法定相続分に応じて分割されて各相続人に帰属するとの判断を示しました。
同判決の考え方は、まず、民法896条にいう相続財産の「共有」を民法249条以下の「共有」と同じ意味に解します。
その帰結として、金銭債権等は同法264条に定める「所有権以外の財産権」となるところ、「法令に特別の定めがあるときは、この限りではない」(同条ただし書)とされていることにより、同法427条の規定が「特別の定め」となります。
その結果、金銭債権等は可分債権であるので、各相続人の相続分に応じて当然に分割帰属するとの解釈になります。
したがって、家庭裁判所の遺産分割審判においては、「貸付金」は「遺産分割の対象となる財産」ではなく、判断の対象にはなりません(判断するまでもなく、各相続人に分割して帰属しているということです。)。
その意味では「貸付金」は「遺産」として扱われないということになります。
それでは、「貸付金」の有無や金額に争いがある場合、どうやって争えばいいのでしょうか。
家庭裁判所で扱うことができない以上、裁判の大原則(権利義務に関する紛争は公開の法廷で行う)に戻り、民事訴訟(地方裁判所または簡易裁判所)で争うことになります。
もっとも、遺産分割審判ではなく遺産分割調停の場では、相続人全員が貸付金を遺産として扱うことに合意すれば、貸付金も含めて調停を成立させることは違法ではありません。
なぜなら、「調停」は「話し合い」の延長なので、このような柔軟な解決が許容されるのです。
これに対して、「審判」は裁判所による公権力の発動であり、法律に厳格に縛られるため、「調停」のような柔軟な方法を採ることはできないのです。
特別受益による持戻し義務があるのは「共同相続人」(民法903条1項)ですが、代襲相続の場合に「共同相続人」をどう考えるべきかという問題があります。
この問題については、特別受益を受けた者が「被代襲者」なのか、「代襲者」なのかを分けて考える必要があります。
まず、特別受益を受けた者が「被代襲者」である場合、原則として代襲相続人は被代襲者の持戻し義務を引き継ぐことになります。
もっとも、審判例では、被代襲者が受けた特別受益の性質が受益者の人格とともに消滅する一身専属的性格のものであることを理由に代襲相続人の持戻し義務を否定したものもあります(鹿児島家裁昭和44年6月25日審判)。
次に、代襲者自身が直接特別受益を受けた場合については、代襲者が被代襲者の死亡等により共同相続人となる前に受けたものは当別受益に該当しないが、相続人となった後に受けたものは特別受益に該当し持戻し義務を負うというのが通説です。
今回は祭祀財産について書いてみたいと思います。
祭祀財産とは、「系譜」「祭具」「墳墓」の3つのことを指します(民法897条1項)。
「系譜」とは、祖先から子孫へと代々続く血縁関係のつながりを記したものであり、家系図や過去帳のことです。
「祭具」とは、祭祀や礼拝の際に用いる器具や道具のことで、宗教によっても異なりますが、例えば仏教では、花立て、香炉、燭台、位牌、仏飯器等のことです。
「墳墓」とは、遺体や遺骨を葬ってある設備のことで、墓地や墓碑(墓石)等のことです。
祭祀財産については、民法では通常の相続財産とは別に定めており、祭祀承継者が承継することとされています(897条1項)。
ここまでは、たいていのウェブサイトにも書かれています。
それでは、「被相続人の」「遺骨」や「位牌」は祭祀財産でしょうか。
祭祀財産も「所有権」が「承継」されるものですのですから(民法897条)、被相続人が「所有」していたものであることが前提です。先祖代々受け継がれてきて被相続人が「所有」していた物を次の代の人が「承継」するのが「祭祀財産」だからです。
だとすると、「被相続人の」「遺骨」は、「被相続人」が「所有」していた物ではないので、「祭祀財産」には該当しないことになります。
また、「被相続人の」「位牌」も、被相続人の死後に製作されたものですから、「被相続人」が「所有」していたものではなく、「祭祀財産」には該当しません。
しかしながら、「被相続人の」「遺骨」に関して、裁判例においては、遺骨の財産としての特殊性や関係者の意識等に照らせば「祭祀財産に準じて」扱うのが相当であると判示したものがあります(東京高裁平成29年5月26日決定。東京高裁平成31年3月19日決定も同旨。なお、最高裁平成元年7月18日判決は「慣習に従って」祭祀承継者に帰属するとしています)。
他方で、「被相続人の」「位牌」に関しては、東京高裁平成31年3月19日決定では、遺骨とは異なり祭祀財産に準じたものと扱うことは困難であると判示しています。
今回は、「負担付相続させる遺言の取消しが認められなかった事例」(仙台高裁令和2年6月11日決定)について解説します。
「負担付相続させる遺言」とはあまり聞き慣れない言葉ですが、「負担付遺贈」と同様のものと思ってください。
「負担付遺贈」(民法1002条)とは、遺言者の財産を遺贈する代わりに、遺贈を受ける人(受遺者)に何らかの義務を負担させる遺言のことです。
例えば、子どもに財産を遺贈する代わりに配偶者の面倒を見てもらうなどの義務(負担)を負わせるという遺言です。
この場合、たいてい、ある相続人に義務を負わせる代わりに他の相続人よりも多くの遺産を相続させる形をとっています。
そのため、義務を負った相続人がきちんと義務を果たしていない場合(義務を果たさず多くの遺産をもらっているので)、不公平感が否めません。
そこで、民法は、このような不公平を解消するため負担付遺贈の取消しについて次のような規定を設けています。
「負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行を催告することができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈にかかる遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。」(民法1027条)
今回紹介する裁判例は、遺言者が、一切の財産を長男に相続させるとした上で、その負担として、長男は二男の生活を援助するものとする、という内容の遺言がなされたケースです。
認定された事実によると、長男は、遺言者が死亡した後、二男に対して2か月間のみ月額3万円を送金したが、その後送金しなくなったとのことです。
この事案で仙台高裁は、遺言の内容が抽象的であり解釈が容易ではないこと、遺言者は二男が一度に多額の現金を取得した場合には浪費することを心配していたと推認されること等を理由に、遺言の取消しを認めませんでした。
もっとも、高裁は遺言の取消しは認めなかったものの、遺言書の解釈として、二男に対して少なくとも月額3万円の経済的援助をすることを法律上の義務として長男に負担させたものと解すべきであると判示しています。
高裁は、遺言を取り消してしまうと遺言者の意思に反することになってしまう(二男が一度に多額の現金を取得することになってしまう)ことを避けつつ、二男が月額3万円の援助を確保できるように配慮したものと思われます。
相続の相談では、「被相続人の遺言書があるけど、作成した時点で被相続人は認知症だったので無効ではないですか?」という質問がよくあります。
この質問には一言で答えることはできません(たいていの質問も一言で答えることは難しいですが・・)。
あえて一言で答えるとすれば、「遺言能力のない状態で作成した遺言書は無効です」となります。
しかし、これではほとんど答えになっていませんね。
中身のある話をするためには、「遺言能力はどのようにして判断されるのか」について説明しなければなりません。
遺言能力の有無は画一的要素で決まるのではなく、個々の具体的な状況を総合して判断されます。
裁判例を見ると、例えば、東京地裁平成16年7月7日判決では、「遺言には、遺言者が遺言事項(遺言の内容)を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力(意思能力)すなわち遺言能力が必要である。遺言能力の有無は、遺言の内容、遺言者の年齢、病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移、発病時と遺言時との時間的関係、遺言時と死亡時との時間的間隔、遺言時とその前後の言動及び精神状態、日頃の遺言についての意向、遺言者と受遺者との関係、前の遺言の有無、前の遺言を変更する動機・事情の有無等遺言者の状況を総合的に見て、遺言の時点で遺言事項(遺言の内容)を判断する能力があったか否かによって判定すべきである。」と判示されています。
そして、上記各項目について検討するための具体的な手がかりとしては、①遺言の内容、②医学的知見、③改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、④介護記録、⑤遺言書作成に同席した者の証言、⑥親族の証言等が検討材料となり得ます。
①遺言の内容については、遺言内容が複雑であれば、より高度の意思能力が必要ですから、遺言作成時において遺言の内容にふさわしい意思能力を備えていなければなりません。
これに対して、単純な内容の遺言であれば、高度の意思能力を備えていなくても、遺言の内容を理解した上で作成することが可能です。
②医学的知見については、医療期間のカルテ等から、遺言作成時の遺言者の病気の種類(特にアルツハイマー型認知症か否か)や症状を吟味していくことになります。
認知症といっても治療可能な認知症(慢性硬膜下血腫)、改善と悪化をくり返しながら進行する認知症(脳血管性認知症)、時間をかけてゆっくりと進行する認知症(アルツハイマー型認知症)等があり、どの型の認知症であるかによっても見方が変わってきます。
③改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)については、満点が30点で平均点は24点前後と言われています。20点以下だと認知症の疑いが高いと判定され、10点前後であれば高度の認知症とされます。
しかし、HDS-Rの点数はあくまで目安に過ぎません。点数が比較的高くても遺言能力が否定された裁判例もありますし、逆に点数が比較的低い場合でも遺言能力が肯定された裁判例もあります。
④介護記録については、遺言者の生活の様子が記録されており、医学的知見を補足するものとして重要な考慮要素となります。
⑤遺言書作成に同席した者の証言については、直接、遺言作成時の遺言者の能力を観察している者として重要です。ただし、遺言者との関係性や相続人との関係性によっては証言の価値が必ずしも高いとは言えない場合もあります。
⑥親族の証言については、普段から遺言者の近くにいて遺言者の言動を観察しているものとして重要です。ただし、この場合でも、遺言者との関係性や相続人との関係性によっては証言の価値が必ずしも高いとは言えない場合があります。
このように、「認知症の人が作成した遺言書は無効になるのか?」と質問されても、一言では答えることはできず、上記のような様々な状況を検討して判断することになります(最終的には裁判官が判断することになります)。
今回は、「遺産確認請求訴訟」についてご説明します。
遺産分割を行う場合、通常、「何が被相続人の遺産であるか」(遺産の範囲)について争いはありません。
遺産分割で揉める場合は、たいてい「遺産の分け方」で争いになるのです。
しかし、稀に、遺産の範囲が争点になることがあります。
例えば、「このマンションの名義は被相続人名義だが、私(相続人)が住宅ローンを全額支払って完済したのだから、実質的には私の物であって遺産ではない」という主張が行われることがあります。その逆の場合もあります。
一般的に、遺産分割で揉めた場合、家庭裁判所で調停や審判を行うことになります。
ところが、上記の例のように、「この財産は被相続人の遺産か」という点が争いになった場合は民事訴訟となり、争いの場は地方裁判所になります。
この裁判が「遺産確認請求訴訟」です。
なぜ、この問題は家庭裁判所ではなくて地方裁判所で審理するのでしょうか。
この話を説明するためには、家庭裁判所がどういう役割を持った裁判所であるかという話からする必要があります。
家庭裁判所は、家族関係に関する問題や親族間の紛争を解決するための裁判所であり、裁判の公開原則(憲法82条)が適用されず、非公開で審理が行われます。
そのような扱いが許されるのは、家庭裁判所では権利義務に関する紛争を扱わないからです。
権利義務に関する紛争を解決するためには、国民の裁判を受ける権利を保障するために公開の裁判で行う必要があります(公開することで裁判の公正さが確保される、という考え方)。
ここで疑問が生じます。「遺産分割調停・審判というのは、『権利義務に関する紛争』ではないのか?」と・・・
実は、遺産分割調停・審判は「権利義務に関する紛争」ではないのです。
考え方としては次のようになります。
相続開始により、法定相続人は被相続人の財産を法定相続分に応じて取得します。
そして、遺産分割とは、法定相続分に応じて各相続人が「既に取得した」権利を調整すること(誰がどの財産を取得するかを決める)に過ぎないのです。
ですから「権利義務に関する紛争」ではないのです。
これに対して、「この財産は被相続人の遺産ではなく私の財産である」という主張がなされると、「被相続人の財産(=相続人の共有財産)なのか相続人のうちの1人の財産なのか」という権利に関する紛争(所有権が誰に帰属しているのか)になってしまいます。
そのため、家庭裁判所の管轄ではなく地方裁判所(公開の裁判)で行う必要があるのです。
もっとも、判例は、常に民事訴訟による判決の確定を待って遺産分割の審判をすべきものというのではなく、家庭裁判所が審判手続において権利の存否を審理判断した上で、分割の処分を行うことも差し支えないとしています(最高裁昭和41年3月2日判決)。
しかしながら、家庭裁判所が行った権利義務に関する判断に関しては既判力がないので(公開の裁判を行っていないので、憲法の要請上、既判力を持たせるわけにはいかない)、家庭裁判所が判断を下した後に、民事訴訟で審理し直すことが可能となります(その結果、民事訴訟で結論が覆ることもあり得ます)。
そのため、実務では、遺産の範囲に争いがある場合には、家庭裁判所は当事者に対して民事訴訟で権利を確定させるように促す(権利が確定してから家庭裁判所で調停・審判を行う)ことにしています。
相続人の廃除とは、被相続人の意思によって推定相続人から相続権を剥奪する制度です。
「どうしてもあの子には遺産を残したくない」というような場合に使える強力な手段です。
ただし、相続廃除のための要件は法律で決まっており、手続についても法律で決められた方法を採る必要があります。
相続廃除の要件としては、①相続人が被相続人を虐待した場合、②相続人が被相続人に重大な侮辱を加えた場合、③相続人に著しい非行があった場合、という3つが規定されています(民法892条)。
①の虐待とは、家族的共同生活関係の継続を不可能にするほど、その関係又は心理に苦痛を与える行為をいうとされています。
②の侮辱とは、家族的共同生活関係の継続を不可能にするほど、被相続人の名誉又は自尊心を傷つける行為をいうとされています。
③の著しい非行とは、犯罪、浪費などで著しく悪質な行為をいうとされています。
次に廃除の方法ですが、
a)被相続人自身が生前に家庭裁判所に相続廃除の請求をする方法
b)被相続人が遺言書に相続廃除の意思表示をして、相続開始後に遺言執行者が家庭裁判所に請求を行う方法
の2つがあります。
いずれの場合でも、家庭裁判所に申立を行う必要があります(被相続人の生前は被相続人が、遺言の場合は遺言執行者が申し立てる)。
相続廃除の申立てがなされると家庭裁判所で審判手続きが行われます。
審判手続きでは、申立人(被相続人又は遺言執行者)と推定相続人が廃除事由の有無について主張、立証を行い、最終的に裁判官が諸事情を総合的に判断して廃除を認めるかどうかの結論を下します。
このように、相続人廃除のためには家庭裁判所での審理が必要で、裁判所はかなり慎重に吟味しますので、廃除が認められるのは容易ではありません。
被相続人の死後において、被相続人名義の建物に相続人が居住し続けていることが問題となることがあります。
例えば、次のような事例を考えてみましょう。
【事例】
父親A名義の建物に長男Bの家族が同居していたところ、父親Aが死亡し、相続が開始した。相続開始後も長男Bの家族は居住を続けている。
相続人は長男Bと二男Cの2人である。
このような場合に、二男Cが長男Bに対して、相続開始後の居住は不当利得だとして、建物の賃料相当額の2分の1を請求する場合があります。
相続開始後、被相続人の遺産は相続人の共有となりますから、自己の持分を超えて使用している部分については不当利得と言えそうな気がします。
しかし、最高裁平成8年12月17日判決は不当利得の請求を認めませんでした。
最高裁の論理は以下のとおりです。
もともと被相続人が同居を許諾していたのであれば、「遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権限を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえる」
つまり、上記の例でいうと、父親Aとしては、自分が死んだからといってすぐに長男B家族に出ていってもらいたいとは考えていないだろうし、長男Bとしても、父親が死亡したらすぐにでも出ていくというつもりで住んでいるわけではないだろう。
父親Aの意思と長男Bの意思はこのように推測されるのだから、おそらくそういう内容の使用貸借契約(民法593条)が成立していたのであろう、ということです。
この最高裁の考えに従えば、遺産分割が完了するまでは、長男Bは「使用貸借契約」という法律上の原因に基づいて建物に居住しているので、不当利得とは言えないということになります。
「特別受益」とは、共同相続人の中に被相続人から遺贈を受けたり生前贈与を受けたりした者がいる場合に、 相続人間の公平を図る制度です(民法903条1項)。
相談者や依頼者に「特別受益」の話をすると、「そういえば、父は兄が結婚するときに結婚式費用や結婚祝いを渡していました。私は独身なのでもらっていません。父が兄に渡した結婚費用や結婚祝いは特別受益になりませんか?」という話がよく出てきます。
一般に、特別受益に該当するか否かは、被相続人が「遺産の前渡し」として財産を贈与したと考えられるか、という観点から検討します。
民法903条1項の条文を見ると、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」という表現が用いられています。
一見すると、「婚姻」という文字が入っているので、結婚費用や結婚祝いは特別受益になりそうな気がします。
しかしながら、ここでいう「婚姻」のための贈与というのは、持参金や支度金のことを意味しており、通常の額の結婚式費用や結婚祝いは特別受益に該当しないと言われています。
問題は贈与した額が「通常の額」か否かということになりますが、親の資産の規模などによっても変わってきますので、幾らが「通常の額」かというのは難しい問題です。
遺産分割の相談を聞いていると、「不動産は時価で評価するのですか?」「時価は誰が決めるのですか?」という質問をよく受けます。
この質問については、段階をおって説明することになります。
まず、原則的に、遺産分割は相続人が話し合って遺産の分け方を決めるものです。
したがって、仮に、遺産の中に「甲土地」「乙土地」「預貯金」があったとして、「相続人Aが甲土地を取得し、相続人Bが乙土地を取得し、相続人Cが預貯金を取得する。」との合意が形成されたならば、それで解決なのです。
無理して「不動産の評価額」を決定する必要はないのです。
ただし、合意を形成するために不動産の評価額を参考にすることは、もちろん構いません。
その場合、「固定資産税評価額」や「路線価」などを参考にする場合があります。
上記の例でいえば、例えば、甲土地の固定資産税評価額と乙土地の固定資産税評価額と預貯金の額がおおむね同程度の額であれば(多少の差があったとしても)、全員が納得しやすいでしょう。
これに対して、甲土地の固定資産税評価額が乙土地の固定資産税評価額の2倍程度だとすれば、「相続人Aがもらいすぎ」という不満が出ることもあるでしょう。
このように、不動産の評価というのは、相続人が納得するための一つの目安として用いるものです。
ですから、何が何でも「時価」にこだわる必要はないのです。
ところが、相続人間の対立が激しい場合には、「絶対に時価で評価すべきだ」という意見が出ることがあります。
特に代償分割(ある相続人が不動産を取得する代わりに他の相続人に対して相応の金銭を渡す分割方法)の場合に、「金銭を幾ら支払うか」という場面でこじれることがあります。
不動産を取得して金銭を渡す側の相続人にとっては、不動産の評価額は低いほうが助かります。逆に金銭をもらう側の相続人にとっては、不動産の評価額が高いほうが多く金銭をもらえるということになります。
このような場合、「固定資産税評価額」や「路線価」は必ずしも時価ではないということで争いになるのです。
それでは、「時価」とは何でしょうか?
「時価」は「実勢価格」や「市場価格」などとも呼ばれます。
例えば、きゅうりやトマトの「時価」はスーパーマーケットで販売されている価格を調べればだいたい分かります(お店によっても価格は異なりますが、だいたい同じ時期の価格は似たような価格となります。)。
これに対して、不動産の時価を判断するのは難しいことです。
「同じような土地」といっても、立地、土地の形、角地かどうか、陽当たりの良さ、法律上の規制等によって価値が異なってくるので、他の土地と単純に比べるわけにはいきません。
この点、不動産仲介業者に依頼すれば、おおまかな査定が出てきます。
しかし、不動産仲介業者の査定は、あくまでも、「売り出すならこのくらいの価格から売り出しましょう。様子を見て反響が悪ければ価格を下げましょう。」という感じのものであり、実際の売買価格をピタリと当てることはできません。
では、誰なら「実際の売買価格をピタリと当てる」ことができるのでしょうか。
それは誰にもできないのです。
不動産は売ってみないと「時価」は分からないのです。
結果的に売れた価格が「時価」ということになるのです。
そうすると、上記の例に戻って、実際に売ることなく「時価」を出すにはどうしたらよいのでしょうか。
当事者が不動産の評価額に合意できない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停・審判を利用することになります。
そして、その手続きの中で、「鑑定」という手続きを行い、不動産鑑定士が「時価」を算出することになります。
裁判官は基本的に不動産鑑定士が算出した金額を「時価」と認定します。
この場合でも、不動産鑑定士が算出した金額は本当の「時価」ではないかも知れません(先ほど述べたように、本当の時価は結果的に売ってみなければ分かりません。)。
それでも、裁判官は結論を出す必要があるので、これを「時価」と結論付けて判断を行うのです。
法律相談で特別受益の話になったときに、よく出てくるのが、「兄は父名義の建物に無償で10年間住んでいました。通常なら家賃10万円は取れる家なので、10万円×12か月×10年=1200万円が特別受益ですよね?」という質問です。
しかし、被相続人名義の建物の無償使用の使用料については特別受益には該当しないという見解が一般的です。
理由としては、特別受益というのは「遺産の前渡し」という性格のものであるところ、被相続人としては、通常、不動産を無償で使用させることを「遺産の前渡し」とは考えていないであろう、ということが言われています。
これに対して、相続人が被相続人の許可を得て、被相続人の土地の上に建物を建てて居住していた(被相続人の土地を無償で使用していた)場合は、少し異なります。
この場合も、土地使用の対価(地代相当額)については特別受益に該当しないとされています。
もっとも、土地の無償使用の場合は、土地使用貸借契約の存在により土地の評価が一定程度減価することになります。
その減価分(使用借権相当額)は建物所有者に贈与されたと評価できますので、使用借権相当額が特別受益に該当することになります。
一般に使用借権相当額は土地の1割程度と言われています。
法律相談では、「長年親の介護をしてきたので寄与分が認められないでしょうか?」という質問をよく受けます。
親の介護で寄与分が認められるかは非常に難しい問題です。
寄与分というのは相続人の行為によって被相続人の財産を増加させたか維持した(減少を食い止めた)場合でなければ認められません。
一般に長年親の介護をしたとしても親の財産が増えるわけではないのでそれだけでは寄与分が認められることはありません。
しかし、例外的に寄与分が認められることはあります。
それは、相続人が介護したことによって、介護のための費用の支出を抑えたことが証明できる場合です。
理屈としては、本来であればプロに介護をお願いしなければならない状態であったのに、相続人自身が介護をしたことで介護費用を節約したので、その分、被相続人の財産の減少を防いだ(維持した)と考えるのです。
そして、「財産の減少を防いだ」額を数値として表せなければなりません。
そのためには、まず、「本来ならばプロにお願いしなければならない状態」であったことを証明しなければなりません。
これを証明するためには、被相続人が入通院をしていた病院のカルテや介護施設の生活記録等を取り寄せます。そして、ただ単に取り寄せただけではダメで、そこに「プロにお願いしなければならない」程度の状態であったことが記載されていなければなりません。
また、介護認定の資料なども取り寄せるのが一般的です。おおむね要介護度2以上の程度でなければ「プロの介護が必要な状態」とは認められません。
その上で、プロの介護を依頼せずに相続人自身が実際に介護したことを証明しなければなりません。
この部分は日記や自身で記録した介護日誌、親族や近隣住民の証言などで証明することになります。
さらに、それらを証明した上で、相続人の介護によって「浮いた」費用を算出しなければなりません。
この部分は、「実際にプロに頼んだらこれくらい支出したはずだ」と説明できる資料などを提出することになります。
このようにして、相続人の介護により相続財産が減少せずに済んだ金額を証明して、それが親族としての通常の寄与ではなく、「特別の寄与」だと認められれば寄与分が認められることになります。
ここまでお読みいただければお分かりかと思いますが、親族が介護をした場合の寄与分は簡単には認めらないのが現状です。
死亡退職金が相続財産に含まれるかという難しい問題があります。
「生命保険金は相続財産か」という問題と少し似ています。
通常の退職金であれば生きているときに受け取りますので、受け取った後、預金として残っている状態でその方が亡くなれば、(預金が)相続財産となります。
死亡退職金は「亡くなってから」支払われるので、通常の退職金と少し意味合いが異なります。
死亡をきっかけに支払われるという点では生命保険金に似ている部分があります。
考え方としては、死亡退職金を「賃金の後払い」の性質を有するものと考えるか、「遺族の生活保障」のために支払われるものと考えるか、がポイントとなります。
一般的に、退職金は(死亡退職金も含めて)勤続年数が長いほど多額になります。その意味では「賃金の後払い」の性質(労務に対する対価)を有しています。
しかし、一家の大黒柱が亡くなってしまったことにより遺族が経済的に困窮することを防止するという「遺族の生活保障」という面があることも否定できません。
実務ではどうなっているかといいますと、死亡退職金に関する支給既定があるかどうかで異なってきます。
国家公務員の場合、国家公務員退職手当法が受給権者を遺族として受給権者の範囲及び順位を法定しており、受給権者の範囲及び順位は民法の定める相続人の範囲及び順位と異なっています。
したがって、法の趣旨としては、死亡退職手当は遺族の生活保障を目的としたものと解され、遺族固有の権利(相続財産ではない)とされています。
また、地方公務員の場合は、各地方自治体の条例で決めることとなっていますが、通常、条例では国家公務員と同様の内容を定めています。
民間企業の場合は、当該企業に死亡退職金に関する支給既定がある場合は、支給基準、受給権者の範囲又は順位などの規定により遺産性を検討し、支給既定がない場合には、従来の支給慣行や支給の経緯等を個別に判断して相続財産かどうかを判断することになります。
遺産分割の際に、葬儀費用を誰が負担するかで揉めることがよくあります。
一般的には、葬儀は被相続人が亡くなられて数日後に執り行われるので、とりあえずは誰かが葬儀費用を払います。
したがって、払った後で揉めることになるのですが、被相続人の財産(預貯金やタンス預金など)から払う場合と相続人の一人(例えば喪主である相続人)が負担する場合があります。
いずれの場合でも揉めることはあり得ます。
実は、「葬儀費用を誰が払うか」については確定した最高裁判決がありません(だからこそ揉めるという面もあります)。
下級審の裁判例はどうなっているかというと、判断は分かれています。
大きく分けると、喪主が負担すべきであるという見解(いわゆる「喪主負担説」)と相続人全員で負担すべきという見解(「共同相続人負担説」または「相続財産負担説」)に分かれます。
前者の裁判例としては、東京地裁昭和61年1月28日判決、東京地裁平成28年11月8日判決(原則として喪主が負担すべきとしながら、当該事案については相続人らの黙示の承諾があったとして、結論としては相続人全員に負担させている。)、東京地裁平成27年12月3日判決、名古屋高裁平成24年3月29日判決、東京地裁平成19年7月27日判決、東京地裁平成18年9月22日判決、東京地裁平成6年1月17日判決(明確に喪主負担説を採用していないが、結論として喪主に負担させている。)、神戸家裁平成11年4月30日審判、大阪高裁昭和49年9月17日決定等があります。
後者の例としては、東京地裁平成20年4月25日判決、東京地裁平成17年7月20日判決、東京地裁昭和59年7月12日判決、長崎家裁昭和51年12月23日審判、盛岡家裁昭和42年4月12日審判、福岡高裁昭和40年5月6日決定、高松高裁昭和38年3月15日決定、大阪家裁堺支部昭和35年8月31日審判、東京高裁昭和30年9月5日決定等があります。
このように見てみると、古い裁判例では相続人全員で負担すべきとの判断が多く、新しい裁判例では喪主が負担すべきとの判断が増えている感があります。
もっとも、それぞれの裁判例は個々の事情に基づいて判断していますし、最高裁判所の判断は未だにありませんので、裁判所が喪主負担説で固まっていると決めつるのは時期尚早かと思います。
私たち弁護士は「ご自身が亡くなられた場合に備えて遺言書を書いておきましょう」と皆様にお勧めしているのですが、遺言書を書いていても揉める場合があります。
遺言書を作成していても揉める場合というのは、一つは、遺言能力が争われるケースです。
特に、自筆証書遺言の場合に遺言能力が争われることが多いといえます。
遺言書にはかならず日付を記入しますが(日付がないと無効)、遺言者が亡くなられた後に、「その日付の頃は認知症がかなり進んでいたから、こんな内容の遺言を書けるはずがない」というクレームが出たりします。
これに対して、公正証書遺言の場合は、公務員である公証人と2名以上の立会証人の前で遺言の内容を伝えますから、そこで遺言能力がチェックされています。ですから、「遺言能力はなかったはずだ」という争い方は難しくなります(それでも争いになることはありますが)。
二つ目は、遺留分で揉めるケースです。
兄弟姉妹以外の相続人には、法律上、遺留分が認められています。
遺留分というのは法律が相続財産について最低限の確保を保証してくれる相続人の取り分です。
遺言書の中には「すべての遺産を〇〇に相続させる」というものが結構あります。
その場合、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子ども等)がいると、その相続人の遺留分を侵害していることになります。
遺言書を残したからといって絶対的ではないのです。
このような遺言書の場合、「遺産のうち遺留分に相当する金銭を払ってくれ」と揉めることがあります。
もっとも、遺留分の割合は法律で決まっているので揉める余地はないのではないか、と思う方もおられるかもしれません。
この点、遺産が預貯金だけであれば、預貯金の総額を「4分の1」とか「8分の1」で割り算をすれば遺留分の額が決定しますので、基本的に揉めることはあまりありません。
しかし、問題なのは遺産に不動産が含まれる場合です。
遺産に不動産が含まれていると、例えば「遺産総額の4分の1を払え」と言っても金額がすぐには確定しません。不動産の評価にはいろいろな方法があるからです。一般的には固定資産税評価、路線価評価、時価(実勢価格)などがあります。
遺留分「4分の1」を金銭でもらう側としては不動産の評価が高いほど多くの金銭をもらうことができます。逆に「4分の1」をお金を支払う側は不動産の評価が低い方が払う金額が少なくて済みます。
そのため、不動産の評価額をめぐって争いが起きるのです。
最近、「相続放棄をしても管理責任があるんですよね?」「相続財産の中に古い建物があるのですが、相続放棄をしても、その建物が崩れて人が怪我をしたら私は責任を負うのですか。」等という相談が増えています。
私が「その話、どこで誰から聞いたのですか?」と尋ねると、たいていの方は「ネットにたくさん出ているので不安になったんです。」とお答えになります。
確かに、インターネット上にはそのような内容の記事が溢れています。
これには、改正前の民法940条が関係しています。
改正前の民法940条1項には「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定されていました。
たしかに、この条文を読めば相続放棄をしても管理責任が残るように感じます。
しかし、これらの記事はこの規定の解釈を誤っています。
この規定の本来の趣旨は、ある相続人が相続放棄をした場合、次の相続人が現れるまでは勝手に相続財産を売却したり壊したり捨てたりしてはいけませんよ、という意味であり、次に現れる(かもしれない)相続人が損をしないようにするための規定です。
相続人ではない第三者が損害を被った場合の損害賠償責任まで規定していません。
このことは、国土交通省住宅局住宅総合整備課及び総務省地域創造グループ地域振興室・平成27年12月25日付事務連絡をみても明らかであり、また、令和元年6月11日に開催された法制審議会民法・不動産登記法部会第4回会議においても、山野目章夫部会長は、「940条を作ったときに,空き家問題であるとか,荒れ果てる建物であるとか,放置された土地とかいうものについて,公共とか近隣が困っているから,あなたは相続放棄しても引き続き面倒を見続けなさいということまでが,果たして,少なくとも940条の原意に含まれていたかというと,恐らくそれは甚だ疑問であって,(後略)」(法制審議会民法・不動産登記法部会第4回会議議事録)と発言されています。
このように、改正前民法940条の解釈において、相続放棄者の第三者に対する責任はないと解されているのが一般です。
そして、改正後の民法940条では責任を「相続財産を現に占有している」場合に限定していますし、旧法の「管理」という表現を「保存」に変更していることからしても、旧法より義務が重くなるとは思えません(軽くなることはあっても)。
したがって、新法の解釈においても、相続放棄者の第三者に対する責任を認める趣旨が含まれているとは思えません。
遺言の必要性については、多くの法律専門家が述べていますが、改めて述べておきます。
例えば、子どものいない夫婦がいて、夫にそれなりの遺産があるとします。夫の両親は既に他界していて、夫には兄弟が5人いるとします。
この例の場合、夫が遺言書を作成せずに亡くなった場合、法定相続分は妻が全体の4分の3、残りの4分の1を兄弟で分けます。
兄弟一人あたりは全体の20分の1です。
この20分の1のために、全員に連絡をして、遺産分割の案を作成して全員から同意をもらわなければなりません。
一人でも同意しない人がいれば裁判所に調停を申し立てなければならないことになります。
もし、上記の例で、夫が「全ての遺産を妻に相続させる」という簡単な内容の遺言書を作成していれば、何の問題もなく、全ての遺産は妻のものになります。
上記の例の場合は、子どもがいないので特に遺言は重要な意味を持ちます。
兄弟姉妹には遺留分はないので、兄弟姉妹は妻に対して遺留分を主張することができません。
ですから、本当に簡単に遺産の引継ぎが完了するのです。
これに対して、遺留分を主張することができる相続人がいる場合は上記の例のように簡単ではありません。
しかしながら、遺留分を請求されたとしても、法律で決められた割合を金銭で支払うことによって解決できますので(誰がどの不動産を取得するか等の問題は生じない。)、やはり遺言書がない場合よりも複雑化しないことが多いといえます。
最近、二世帯住宅が増えてきています。二世帯住宅では家計を完全に分けているところもあれば、二世帯で一緒にしているところもあります。
二世帯住宅に限らないことですが、親が子どもや孫に対して食事に連れて行き食事代を出してあげるとか、親子で(あるいは親、子、孫の三代で)旅行に行き、親が旅行代金を出してあげるとか、親が孫の教育費を出してあげるとかいうことがよくあります。
二世帯住宅などで同居の場合には、特にこのような傾向が強いといえます。
このような生活費の援助は特別受益になるのでしょうか。
これは大変難しい問題です。
特別受益とは被相続人の生前に「遺産の前渡し」といえるような財産の移転があった場合に、相続人間の公平を図るための制度です。
親と子が二世帯住宅などで同居している場合に、親が子に対して感謝の気持ちも含めて多少生活費を援助することはごく自然なことであり、「遺産の前渡し」というつもりでお金を支払っているかというと違うような気がします。
「遺産の前渡し」ということであれば、「あなたには先に遺産を渡したのだからあとで調整してね」(つまり、遺産分けの時は他の兄弟より少なくもらってね)という考えが親の頭の中になければなりません。
私は、通常、親にはそのような考えはないと思うのです。
しかし、あまりにも金額が大きい場合には、「相続人間の公平」という観点から特別受益に該当するとの判断もあり得るかと思います。
裁判例としては東京家裁平成21年1月30日審判(家庭裁判所月報62巻9号62頁)があります。
同裁判例では、持ち戻すべき金銭給付か否かの基準を月額10万円とし、これを超えるものは全額持戻しの対象としました。
抗告審である東京高裁平成21年4月28日決定(家庭裁判所月報62巻9号75頁)も東京家裁の審判を支持しました。
もっとも、親と子の経済的事情や子の健康状態(例えば病弱で働くことが困難)等によっても判断は変わってきますし、裁判官によっても見解は異なります。
したがって、家庭裁判所が一律に月額10万円を基準に判断するというものではなく、その点は注意が必要です。
相続放棄に関連した相談で、次のような相談がときどきあります。
「父親が亡くなったときに父親の遺産は全て兄が相続した。そのときに、兄は、次に母親が亡くなったときには母親の遺産を放棄すると約束してくれた。しかし、実際に母親が亡くなった今になって、法定相続分はもらうと言い出した。兄は約束を守らないといけないですよね?」
法律の世界では、約束は守らないといけないのが基本中の基本です。
しかし、相続の分野では少し違うところがあります。相続はいわゆる「家族法」の一部です。「家族法」というのは家族や親族に関連する法規範です。
「家族法」においてはいわゆる「取引法」とは異なる考え方が存在します。「取引法」においては約束を守ることは鉄則ですが、「家族法」では必ずしもそうではない部分があります。
生前の相続放棄もその一つです。亡くなる前に相続放棄を約束してもその約束に法的拘束力はありません。
その理由は、現在の民法が制定された当時は、まだ、日本には家父長的な要素が色濃く残っており、父親が長男に全ての財産を相続させるために、父親の支配力を利用して他の兄弟に相続放棄を迫って約束させるようなことが起こりうると考えられたため、相続人の公平のためにそのような行為を無効にする必要があったのだと言われています。
同様の理由から、生前の遺産分割協議も無効です。親が支配力を利用して長男が全ての財産を相続する内容の遺産分割協議書を作成するようなことが起これば、相続人の公平が害されてしまい、全ての子どもを平等に扱うという民法の趣旨が没却されてしまうからです。
よく「遺留分を事前に(被相続人の生前に)放棄させることはできますか?」という質問を受けます。
答えとしては「強制的に放棄させることはできません。」ということになります。
遺留分権利者は、相続開始前に、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することができます(民法1049条1項)。
つまり、遺留分権利者が自分の意思で放棄しないといけません。しかも、その手続は家庭裁判所で行い、家庭裁判所が「許可」してくれた場合のみ、放棄が可能です。
このような厳格な手続きとなっている理由は、遺留分の放棄を無制約に認めると、被相続人が親の権威をもって遺留分権利者の自由意志を抑圧し、遺留分の放棄を強要することが起こりうるから、と説明されています。
そのため、家庭裁判所が遺留分の放棄を許可するか否かの判断基準としては、①放棄が遺留分権利者の自由意思に基づくか否か、②遺留分を放棄する理由に合理性・必要性があるか否か、③放棄と引換になされる代償が存在するか否か、等を総合的に判断するとされています。
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自分で書き、押印して作成する遺言です。
簡単に作成できて便利ですが、以下のような注意点があります。
①全文の自書
遺言者は遺言書の全文を自分で書かなくてはなりません。タイプうちしたもの、コピーしたもの、点字によるものは自書とはいえません。
もっとも、自筆証書遺言に相続財産等の目録を添付する場合には、その目録については自書でなくても構いません(民法968条2項)。ただし、この場合、自書ではない財産目録の全てのページに署名押印が必要です。
②日付
日付は、年月日まで客観的に特定できるように記載しなければなりません。「4月吉日」のような記載は無効となります(最高裁昭和54年5月31日判決)。
③氏名
氏名は、戸籍上の氏名でなくても、通称やペンネームでもよいとされています。
④押印
押印は、認め印でも指印でもよいとされています。
「学費は特別受益になりますか?」という質問をよく受けます。
特別受益とは、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいた場合に、相続に際して、共同相続人間の公平を図ることを目的に、特別な受益を相続分の前渡しとみて、計算上贈与を相続財産に持ち戻して相続分を算定することです(民法903条)。
学費についてはよく問題になるのですが、高等学校卒業までの学費は通常、特別受益とはならないでしょう。
高校卒業後の学費については、私立大学医学部の入学金・授業料や海外留学費用などのように特別に多額なものは特別受益に該当する場合があります。
この点、裁判例としては、大阪高裁平成19年12月6日決定が「本件のように、被相続人の子供らが、大学や師範学校等、当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で、子供の個人差その他の事情により、公立・私立等が分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般的であり、仮に、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべきである。」と判示しています。
上記裁判例からすれば、学費については、相続人間で相当多額の差が生じない限り、特別受益とは認められないものと思われます。
法律相談をしていると、「こういう場合、訴えることができますか?」という質問を受けることがあります。
実は、この質問、弁護士泣かせの質問です。答えるのが一苦労なのです。
まず、相談者がどういう趣旨で言っているのかを確認する必要があります。
例えば、相談者の話が「ある人にお金をだまし取られた」という内容の話だったとします。
この場合、相談者は何を求めているのでしょう?
まず、警察に逮捕してもらって刑事事件にして有罪にしてほしいということが考えられます。
刑事事件で「訴える」というと、通常「起訴」のことを意味します。「起訴」とは、検察官が裁判所に対してある人を有罪にするように求めて刑事裁判を起こすことです。
日本では、「起訴独占主義」といって、私人の起訴を認めず、検察官だけが起訴をする権限を認められています。したがって、この意味の場合、答えは「ノー」ということになります。
もっとも、刑事事件で「訴える」というと「告訴」の意味もあり得ます。
「告訴」とは、被害に遭った人が捜査機関に対して被害を申告して「起訴」を求めることです。
「起訴」をすることは検察官しかできませんが、「起訴をしてください」と求めることは私人でもできます。ですから、この意味であれば、答えは「イエス」です。
しかし、告訴をすれば必ず検察官が起訴してくれるわけではないので、その説明も必要になります。
また、民事事件として提訴できるか、という趣旨の場合もあります。
この場合、答えは「イエス」です。日本国憲法では「裁判を受ける権利」が認められています。私人間の紛争について裁判所で結論を下してもらう権利が保障されているのです。
しかし、おそらく相談者はそういうことを聞いているのではなく、「裁判で勝てるか」という趣旨で聞いている場合が多いと思われます。
この意味の場合、ご相談のケースに応じて、「ある程度、勝算はあります」とか、「かなり難しいでしょう」とか、「やってみなければ分かりません」などと答えることになります。
このような話を全て説明しなければ、法律家として正確に答えたことになりませんので、「訴えることができますか?」という質問は弁護士泣かせの質問なのです。
推理小説や推理ドラマで、「死亡推定時刻は何日の何時から何時頃です」という台詞がよくありますね。
死亡推定時刻ってどうやって推定するのでしょうか。
一般的には、7つの方法があるといわれています。
一つ目。体温の低下です。
人が死亡すると体温が低下していきます。体温の低下の程度は季節によって異なり、冬は1時間に2℃程度下がり、春や秋は1℃程度下がり、夏は0.5℃程度下がると言われています。
しかし、体格や室温などによって体温が下がる度合いは変わってくるため、それだけでは正確には分かりません。
二つ目。死後硬直です。
人が死亡すると筋肉が動かなくなるので体が固まってきます。死後24時間くらいかけて徐々に硬直していきます。それ以降は、逆に酵素が働いて硬直が解けていきます。この体の硬直具合や硬直が解かれている様子を見て死亡時刻を推定する方法です。
しかし、やはり、温度、天気、年齢などで左右されるので絶対的ではありません。
三つ目。死斑です。
人が死亡すると血の巡りがなくなるため、血が重力によって沈んでいき、ところどころに血がたまります。それが死斑です。死斑の有無、大きさ、体位を変えて死斑が移動するか(死斑が移動する場合は死後あまり時間が経過していない)などを確認して推定します。
しかし、死んだ後に体位が変化したりすると、死斑が出現しなかったり死斑の位置が変わったりするので確実とは言えません。
四つ目。角膜の混濁です。
人が死亡すると目の角膜が曇り始めます。これは体が乾燥していくからです。目の角膜は元々潤っていて最も乾燥の影響を受けやすいので指標として用いられます。
しかし、これもやはり、天候などの環境で変化しますし、目が開いているか閉じているか半目なのかによっても変わってきますので確実ではありません。
五つ目。胃の内容物です。
これはイメージしやすいと思います。胃の内容物の消化具合から死亡時刻を推定します。
しかし、胃の消化のスピードは個人差が大きいと言われており、ストレスなどを感じている場合は消化が遅かったりするそうです。
六つ目。膀胱内の尿の量です。
例えば、寝る前におしっこを済ませて寝た場合、寝てすぐに死亡した場合には膀胱内の尿の量は少なく、朝方であれば多くの尿がたまっています。それによってある程度の推定ができます。
しかし、寝る前におしっこを済ませたかどうか、夜中に目が覚めておしっこをしたかもしれないなど不確定な要素もあるので、あまり重視するわけにはいかないでしょう。
七つ目。腐敗です。
人が死亡すると、微生物や細菌により体の細胞が分解されていきます。夏は2日程度で腐敗が始まり、冬は7日程度で腐敗が始まるという目安があり、腐敗の程度によって推定します。
しかし、これもやはり、温度、湿度や死体の水分量によって腐敗の速度が相当変わってくるため、確実ではありません。
結局、どれ一つとっても確実ではないので、法医学の先生は、様々な要素を総合的に考慮し、知識と経験に基づいて推測することになります。
では、7つの要素を総合すれば確実に死亡時刻を当てられるかというと、そうでもありません。一つひとつの要素が不確実なので不確実なものを重ねてもやはり不確実なのです。
ですから、警察が捜査を行う際に法医学医の死亡推定時刻に頼ってしまうと、本当はアリバイがあるのにないことになったり、その逆になったりしてしまう危険があります。
そのため、警察では、「生きている時に最後に目撃された時刻」と「死体が発見された時刻」の間を「死亡推定時刻」と呼んで慎重に捜査を行うようです。推理小説やドラマとはだいぶ違いますね。
事件報道で「バールのようなもの」という表現を聞くことがあります。
どうして、「バール」と言わずに「バールのようなもの」と言うのでしょうか。
おそらく2つの意味があると思います。
まず、1つは、例えば自動販売機がこじ開けられて金銭が盗まれた事件で、何かでこじ開けた形跡はあるが、その道具が犯行現場に残っていない場合があります。
そういう場合、バールを使った可能性は高いのですが、犯行現場に残っていない以上、「バール」とは断言できないのです。
「普通バールでしょう」と言いたくなりますが、バールに似ているがバールでないものもあります。
バールは西洋から入ってきた工具ですが、日本に古来よりある工具で「カジヤ」という工具があります。「釘抜き」ともいいます。
ですから、確実にバールとは限らないので、「バール」と断定してしまうと正確な報道とはいえないのです。
もう1つの意味は、例えば殺人事件などで、凶器が現場に残っていても、「バールのようなもので殴られた」とか、「鈍器のようなもので殴られた」と表現する場合があります。
これには「秘密の暴露」が関係しています。
「秘密の暴露」というのは、事件の容疑者が自白をする際に、「捜査機関と犯人以外知りえない内容」を容疑者が話すことです。
例えば、殺人事件が発生して、犯行現場に血の付いたカナヅチが残っていたとします。でも、報道ではカナヅチと言わず、「バールのようなもので殴られた傷がある」と言っておきます。
その後、容疑者が浮かび上がって逮捕されて「自分が殺しました。」と自白すると、警察官は「じゃあ、どうやって殺したのか」と聞きます。
そのときに、容疑者が「カナヅチで殴りました」と答えると、カナヅチで殴られたことは報道発表されていないので犯人でなければ知らないはずです。
これが「秘密の暴露」です。
このような「秘密の暴露」があると自白の信憑性が高まりますので、有罪の証明に役立つというわけです。
「鈍器のようなもの」「ひものようなもの」という言い方も同じように使われています。
今回は「法律を知らなかった」は通用しない、というお話です。
日本は、もちろん法治国家です。法治国家では「国民は法律を知っていなければならない」というのが古代ローマ時代から続く大原則です。
例えば、人の物を盗むと窃盗罪で罰せられます。
「窃盗罪」という罪名を知らない人はいるかも知れませんが、「人の物を盗むことは悪いことであり、犯罪である」ということは誰でも知っています。
常識として知っていないといけないのです。
では、自動車運転に関する交通違反はどうでしょうか。
自動車を運転するためには免許が必要です。免許を取るためには自動車教習所で勉強しなければいけません。
教習所で勉強しているはずなので、自動車運転に関する交通違反は知っているはずです。
それでは、自転車の交通違反はどうでしょうか。
最近、自転車の交通違反の取り締まりが強化されています。自転車は運転免許がなくても乗ることができるので、自動車教習所に通っていない人もたくさんいます。
それでも、「法律を知らなかった」は通用しません。「自転車が左側通行だとは知りませんでした」(※1)とか「夜になったらライトを付けないといけないとは知りませんでした」(※2)も通用しません。
※1 3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金
※2 5万円以下の罰金
上記の例は日常生活に関係する法律ですが、それ以外にもたくさんの法律があります。仕事に関係する法律もたくさんあります。
仕事に関する法律で特に重要なのは、会社でも自営業でも人を雇う場合には、労働法をしっかりと勉強しなければいけないということです。
こういう話をすると、「でも六法全書全部なんてとても覚えられません」という声が聞こえてきそうです。
しかし、それほど心配は要りません。自分の日常生活と仕事に関連する法律の基本を勉強しておけばたいていは大丈夫です。
例えば、趣味で鉄道の写真を撮る人は、線路内に立ち入ってはいけないとか(※3)、そういうことは知っておかないといけないでしょうね。
※3 鉄道営業法違反 1万円以下の科料 場合によっては威力業務妨害罪として3年以下の懲役または50万円以下の罰金
このように、基本的には日常生活に関係する法律と自分の仕事に関係する法律を知っていれば大丈夫ですが、非日常のことが起きた場合は注意が必要です。
例えば、相続などは非日常のできごとです。
自分に関係する相続が生じた場合には、初級者向けの本を買って勉強するとか専門家の法律相談を受けるなどして相続に関する最低限の法律知識については勉強されたほうがいいでしょう。
殺人事件の報道で「死体遺棄の容疑で逮捕しました」という話をよく耳にします。
例えば、犯行現場が容疑者の自宅で、被害者の遺体が近くの雑木林で発見されたとします。
そうすると、おそらく犯人は「殺人」と「死体遺棄」の両方の罪を犯していると考えられます。
そして、容疑者が浮かんで、家宅捜索をして被害者の血痕があったり、凶器が発見されたりしたら、当然、殺人の疑いは濃厚になります。
ここまでくれば殺人容疑(あるいは殺人と死体遺棄の容疑)で逮捕してもおかしくないでしょう。
しかし、このような場合でも「死体遺棄」の容疑で逮捕することが多いのです。
殺人ではなく死体遺棄の容疑で逮捕する理由は二つ考えられます。
一つは、殺人という重大な犯罪なので慎重に捜査をして証拠が固まってから逮捕するべきだということです。
もう一つは、殺人と死体遺棄の容疑で同時に逮捕してしまうと、被疑者を身体拘束して取り調べる時間が短くなってしまうからです。
どういうことかというと、刑事訴訟法208条で被疑者の勾留は20日間と決められています。
検察官は、被疑者が勾留されてから20日以内に被疑者を起訴するか釈放しなければなりません。
刑事事件の被疑者には無罪推定の原則が働きますから、無罪かも知れない人を長期間拘束することは人権の観点から好ましくないし、身体拘束が長期間にわたると虚偽の自白を生むなどの問題があるからです。
しかし、殺人事件となると、警察も検察も、しっかりと取り調べをしたいんですね。警察や検察にとっては20日間というのは短い。そこで死体遺棄と殺人との2段階に分けて逮捕・勾留するという手法を用いるのです。
刑事訴訟法208条の解釈としては、「事件単位説」といって、逮捕や勾留は一つの事件ごとに行うと理解されています。
つまり、「死体遺棄事件」として20日間勾留してから、「殺人事件」として20日間勾留することができるのです(逮捕も含めるともう少し増えます)。
もちろん、死体を遺棄していない場合はこの手法は使えませんが、死体を遺棄している場合の多くはこの手法を用います。
報道で、被疑者は「殺人についても仄めかしている」という表現を用いる場合があります。
このような表現を用いる場合は、殺人についても供述していることが多いです。
どうして「殺人についても自供している」と明確に言わないかというと、死体遺棄容疑で逮捕・勾留しているときに殺人事件の取り調べをすることは好ましくない(任意の取調べは許されるが強制的な取り調べは許されない)のです。
そこで、「今はあくまで死体遺棄事件の取り調べをしているのであって、殺人事件の取り調べをしているわけではない」という建前を維持するために、明白に殺人について自供している場合でも「仄めかしている」という言い方をするのです。
私の見る限り、マスコミもこのあたりの事情は理解した上で報道しているように思います。
最近、夫婦別姓の問題や、同性婚の問題などがよく話題に上ります。
こういう問題を議論する際に外せないのが戸籍の問題です。
そもそも戸籍はいつからあるのでしょうか。
日本で全国的な戸籍が初めて作られたのは670年と言われています。
徴兵や租税の管理が目的だったと言われています。
ということは、現在の戸籍を遡ると飛鳥時代までたどり着くのでしょうか?
そうではありません。飛鳥時代にできた戸籍制度は平安時代になくなってしまいました。
理由は、税金逃れのために戸籍の偽造が行われたり浮浪人が増えたりして、制度が崩壊したからだと言われています。
その後、しばらく日本には戸籍制度がなかったようなのですが、戸籍に似た制度はいろいろとあったようです。
たとえば、安土桃山時代には、学校で習った「太閤検地」が行われました。これもやはり年貢を取り立てるためのものでした。
江戸時代もいろいろな制度があったそうですが、戸籍制度は復活しませんでした。
戸籍制度が復活するのは明治時代に入ってからです。欧米列強の脅威にさらされる中、近代国家樹立に向けて様々な制度を整備したうちの一つだそうです。
「家制度」と密接に結びついた富国強兵政策の一環であったようです。
ところで、日本以外の国には戸籍はないのでしょうか。
日本の戸籍制度に類似した戸籍制度を採用している国は、中国と台湾です。
ただし、中国はかなり特殊な戸籍制度のようです。
台湾は、日本が統治していた時代に日本と同じような制度が作られ、改正を重ねながら現在に至っています。
台湾と同様に日本による統治が行われていた韓国でも、日本の統治時代に戸籍制度が作られました。
最近まで戸籍制度が続いていたのですが、2008年に廃止されました。
その他の国には、日本の戸籍制度のような制度はないみたいです。
では、どのようにして国民のことを把握しているのかというと、欧米などでは、ほとんどの国が国民識別番号制度(国民背番号制度)を導入しています。
同制度によって税務管理を行ったり、社会保障のために利用しています。
日本にもマイナンバー制度(正式名称:「社会保障・税番号制度」)が導入されましたので、近い将来、税務管理や社会保障はマイナンバーで管理されるようになると思います。
そうすると、戸籍制度は不要になるかも知れません。しかし、戸籍制度に関しては様々な意見がありますので、どうなるかは全く分かりません。
「裁判は時間がかかる」とよく言われますが、どうして裁判は時間がかかるのでしょうか。民事裁判を念頭に置いて説明します。
まず、裁判を起こそうと思えば、通常、弁護士に依頼をして「訴状」を作成して裁判所に提出します。
この「訴状」というのは、「何を訴えるのか」という一番重要な書面です。
訴状を作成するためには、弁護士は依頼者の話をしっかり聞いて依頼者が何を訴えたいのか把握しなければなりません。
そのためには、打合せを重ねつつ、「家の中にこういう書類はないですか」と尋ねたりしながら証拠を準備します。証拠の準備ができたら訴える内容を文章にしてまとめます。
事案の複雑さにもよりますが、訴状を準備するまでに1~2か月かかります。複雑な案件の場合はさらに時間がかかる場合もあります。
訴状が完成すると、訴状を裁判所に提出します。訴状を提出してもすぐに裁判は始まらず、訴状提出から1か月半後くらいに、ようやく「第1回口頭弁論期日」が開かれます。
「第1回口頭弁論期日」で裁判が始まります。裁判が始まると、被告(訴えられた側)が答弁書を提出することになります。
答弁書とは、訴状の記載内容について認否を行う書面のことです。具体的には、訴状に記載されている内容の一つひとつについて、「認める」、「否認する」、「不知」と答えていきます。
例えば、妻(原告)が夫の不倫相手の女性(被告)を訴えて慰謝料を請求する裁判の場合、訴状に、「被告は原告の夫の会社の同僚であり、同じ職場に勤めている」と書かれていたとします。
その記載に間違いがなければ「認める」と書きます。
事実と違う場合は「否認する」と書きます。
否認する場合には、「原告の夫なんて知らない。会ったこともない。」とか、「会社の同僚であるが、職場は別である。」などと追加して書きます。「否認する」というだけでは、どこが違うのか分からないからです。
こういうことを一つずつ書いていくのが答弁書です。
答弁書が出てくるまでに通常1か月程度かかります。
被告から答弁書が出ると、原告はそれに対して書面で反論します。
例えば、答弁書の内容が「同僚だが交際はしていない」という内容であった場合、「そんなはずはない。スマートフォンの着信履歴がある」などと反論をします。
それに対して、被告は「確かに電話はしたけど仕事の話だ」などと反論したりします。
こういうやりとりを基本的に全て書面で行います。
弁護士が書面を作成するのに、だいたい1か月程度かかるので、1か月に1回書面が出て、その1か月後に反対側から書面が出て、ということが繰り返されます。
どうして、1回の書面を作成するのに1か月もかかるのかというと、一つには、弁護士はその1件だけを扱っているのではなく数十件の案件を抱えているので、多くの書面を書かなければならず、そのために時間がかかるということがあります。
また、書面を作成するにあたっては依頼者と打合せをする必要がありますが、当然、依頼者と弁護士の双方が空いている日時で調整することになるので、すぐに打合せが入らないことも結構あります。
そのようなことで書面の作成に時間がかかります。裁判は書面のやりとりで時間がかかるのです。
弁護士を付けずに裁判はできるのでしょうか。
まず、日本の裁判は大きく分けて刑事裁判と民事裁判があります。
まず、刑事裁判の場合、公開の法廷で行われる正式裁判においては、一定の案件では必ず弁護人(刑事裁判で被告人を弁護する弁護士のことを「弁護人」といいます。)を付けなければならないことになっています。これを「必要的弁護事件」といいます(刑事訴訟法289条等)。
一定の案件と書きましたが、実はほとんどの案件が該当します。
殺人、強盗、窃盗、詐欺、恐喝、覚醒剤、強制わいせつ、傷害等は全て必要的弁護事件です。
弁護人を付けないで裁判できる案件はかなり少なく、一般に知られている罪名としては、無免許運転、酒気帯び運転、暴行罪くらいです。
では、これらの案件で弁護人を付けずに裁判をしているかというと、そうではありません。
弁護人を付けたいけど弁護士費用を出せない人は国選弁護人を請求することができます(付けなくてもいいというだけで、付けたい人は被告人の権利として付けることができます。)。
また。本人が「弁護士を付けなくていい」と言い張っても、たいていは、裁判官が職権で弁護人を付けます(刑事訴訟法37条)。
なぜかというと、もちろん被告人の人権を守るという意味もあるのですが、弁護人が付いていないと裁判のルールをいちいち説明するのが大変なんです。
その結果、刑事事件のうち正式裁判では99%弁護人が付いています。
次に、民事裁判の場合、日本では、どんな裁判でも弁護士を付けずに裁判できます。
これに対して、ドイツ、オーストリア、フランスでは、必ず弁護士を付けないといけないという決まりになっています(弁護士強制主義といいます。)。
弁護士を付けずに自分で裁判をすることを一般に「本人訴訟」といいます。
実は、日本では、本人訴訟の割合が結構高いのです(地裁で50%程度、簡裁で90%程度)。
本人訴訟の場合、当事者尋問がどうなるのかに気になりますね。
当事者尋問というのは、テレビドラマでよく見るように、裁判の当事者が法廷の証言台の前で弁護士から質問を受けてそれに答えるというものです。
当事者尋問には、主尋問と反対尋問があります。
双方が弁護士を立てるケースでは、主尋問では、自分が依頼した弁護士が自分に対して質問をします。反対尋問では、相手が依頼した弁護士が自分に質問をします。
本人訴訟の場合、自分に対する主尋問は誰がするのでしょうか。
自分で自分に対して質問して自分で答えるのは想像しただけでも滑稽ですね。
答えは、裁判官です。
具体的には、どういう質問をするかを自分で考えて「尋問事項書」という書面を作成して事前に裁判所に提出しておき、それを裁判官が読み上げて、それに対して回答します。
今回は,民事訴訟の請求額について書きたいと思います。
よく,ニュースなどで,「○○円を請求した裁判で○○円の支払いを命じる判決が出ました」というのを見かけませんか。
だいたい,請求額よりも判決の金額のほうが低いですよね。
請求額は何を基準に決めているのでしょうか。
実は,請求額は,一応の理由があれば幾らでもオーケーです。
例えば,ある人がある人を殴ってケガをさせたとします。
話し合いで解決すればそれでいいのですが,話し合いで解決しなくて,被害者の人が民事訴訟を起こすとします。
請求額はどうやって決めるのでしょうか。
基本的に,積み上げ方式です。
ケガをしたので病院に行って治療費がかかりました。通院の交通費がかかりました。それらを積み上げていきます。
殴られたときにメガネが壊れたのであればメガネ代も積み上げます。
そして,ケガをさせられた場合には慰謝料も請求できます。
この慰謝料が一つのポイントです。
治療費や交通費は領収書などで決まります。実際にかかったお金より多く請求するのは一応の理由すらありません。
ただし,慰謝料は精神的な損害を金銭的に評価するものです。
「私はものすごく傷ついた。ものすごく苦しんだ。私の苦しみを金銭的に評価すれば1億円だ」と言って1億円を請求することも可能です。
一応の理由といえるからです。本人としてはそれくらいの感覚だというのが一応の理由です。
浮気の慰謝料の場合でも1億円請求することは制度上可能です。
そして,民事訴訟の重要なルールとして,「請求額以上の判決額は出ない」というルールがあります。難しい言葉ですが「処分権主義」という民事訴訟の大原則です。
そうしますと,請求額は大きいほうがいいと思いませんか。
なので,たいていの場合,多めに請求するのです。
じゃあ,「僕は10億円請求したい」というのもありでしょうか。
あり得ないことはないのですが,収入印紙代の問題があります。
民事訴訟を提起する場合,請求額に応じて訴状に収入印紙を貼らないといけません。
この額は法律で決められており,例えば,1000万円を請求する場合,収入印紙代は5万円です。1億円を請求する場合,32万円です。10億円を請求する場合,302万円です。
ですから,認められるはずがないような金額を請求するのはもったいないのです。
特に,名誉毀損の裁判の場合,請求額と認められる額が大きくかけ離れる場合が多いような気がします。
名誉毀損の場合,「自分の信用が低下した。自分の信用の価値はこれくらいだ。」といって結構大きい額を請求するのですが,残念ながら裁判所が認める額は本人が思っているよりかなり少ないんですね。
判決では,過去の裁判例なども参考にしつつ,他の事案と不公平にならないように金額を決めます。同じような事案なのに,A裁判官は5000万円,B裁判官は5万円,では不公平ですよね。
ですから,無理矢理大きな額を請求しても認められる金額には影響しません。
先日(3月10日),ふるさと納税に関連した裁判で泉佐野市が国に勝訴したという判決があり,ニュースになりました。
ふるさと納税制度は2008年から開始したのですが,各自治体で,年々,返戻品が豪華になっていきました。
そのため,国は,あまりにも豪華な物や自治体の産業と関係のない物は返礼品にしないように呼びかけを続けました。
しかし,泉佐野市は,国の呼びかけを無視して高価な肉やAmazonギフト券などを返礼品に取り入れて多額の寄付金を集め,2018年度には498億円を集めたそうです。
これに対して,ふるさと納税を所管する総務省は,省令を改正して,多額の寄付金を集めた自治体の特別交付税を減額することや,そのような自治体をふるさと納税制度から除外することを決定したのです。
その結果,2019年度の泉佐野市の特別交付金は前年度比で4億4000万円減らされました。また,2019年5月には,総務省は泉佐野市を含む4つの自治体を制度から外しました。
これに対して怒った泉佐野市は,「そんな決定はおかしい!」と言って裁判を起こしました。
泉佐野市は,①まず,2019年11月に,ふるさと納税の制度から除外された決定の取り消しを求めて提訴しました。
②次に,2020年6月に,特別交付金を減額した決定の取り消しを求めて提訴しました。
除外決定の取り消しを求めた裁判(①)は最高裁まで行き,最高裁は,そういうことを決めるのは総務省の権限の範囲を越えている,という理由で,泉佐野市を勝たせました(2020年6月30日判決)。
今回のニュースは,もう1つの裁判(②)のほうで,特別交付金の減額決定の取り消しを求めた裁判です。
今回の判決は,最高裁ではなく大阪地裁ですが,①の裁判と同様に,総務省の権限の範囲を超えており違法と判断しました。
省令で定めることができるのは法律の趣旨に反しない範囲に限られます。いずれの決定も法律の趣旨を超えていると判断されたわけです。
昨年末(12月21日),東京地裁で,インターネットの海賊版サイト「漫画村」に掲載する広告を募った代理店に対して損害賠償を命じる判決がありました。
「漫画村」の運営者は,昨年,刑事事件で実刑判決になりましたが(令和3年6月2日),今回は民事訴訟です。
少し前に,「ファスト映画」の投稿で有罪判決が出た話を書いたときに「漫画村」のことも少し書きました。
そのときには,「違法アップロードされたコンテンツを視聴する人が多いから違法アップロードがなくならない。今後は違法アップロードされたコンテンツをストリーミング再生する視聴者にも罰則がつくかもしれない。」という話をしました。
個人の視聴者を取り締まるのは難しいので,今回のように広告代理店の責任を認めたことの異議は大きいと思います。
判決では,「漫画村」は著作権を侵害しており,広告料を運営会社に支払う代理店行為も著作権侵害を幇助していると判断したのです。
また,今年に入って,ネタバレサイトの経営者が著作権法違反の容疑で書類送検されました。漫画の台詞などを無断でネットにアップロードしていたという事件です。
報道によりますと,ほぼすべての台詞を閲覧できる状態にしていたようです。
つまり,「ネタバレサイト」という形で報道されていますが,ほとんどの台詞をアップしたことが著作権侵害に当たるということです。
ネタをばらしたこと自体が著作権法違反ということではありません。
しかし,ネタをばらしたことで漫画の売り上げに影響が出て損害が発生すれば別の法律に引っかかることもあり得ます。
このケースもやはり広告収入を得ていたそうです。
今後はこのようなサイトに広告を出す会社や広告代理店が訴えられるケースが増えてくると思われます。
昨年の夏,高知県の公立小学校で,プールの水を止め忘れたことにより250万円ほど水道料金が増えたという事件(事故?)がありました。
この件で,水を止め忘れた教師に水道代を請求するというニュースがありました。
報道によると,高知市は増えた水道料金の半分程度の132万円を現場の教師たちに請求すると決めたそうです。
内訳は,止め忘れた教師が50%の66万円,校長と教頭が25%の33万円ずつだそうです。
この手の事件は,よく起きています。
昨年夏には,大阪市の小学校でプールの排水弁が開いたまま1週間水を出し続けた事件があり,このときの損害額は140万円くらいといわれています。
2018年には,神奈川県綾瀬市の公立小学校でプールの給水栓を閉め忘れて108万円の損害が出た事件で,市が学校関係者7人に対して損害額の50%にあたる54万円を請求したことがありました。
そして,学校ではないですが,兵庫県庁では,2019年に貯水槽の点検時に排水弁を閉め忘れて600万円の損害が出たことがありました。
このケースでは,県が職員に対し損害額の半分にあたる300万円を請求しました。
だいたい,損害額の半額程度を請求していることが多いですね。
今回の高知市の件でも,損害額の半額を請求することになりました。
この「半額請求」の流れは,過去に東京の都立高校でプールの排水バルブを閉め忘れて100万円程度の損害が発生した事案で,都民が裁判を起こした件がきっかけになっています。
都民は裁判で「都はミスをした教職員らに対して損害額の全額を請求すべきだ」と主張したのですが,裁判所は「請求できるのは半額までが妥当だ」と判断しました。
この例が半額請求の前例になったのです。
しかし,仕事上のミスによる損害を組織が個人に対して請求することについては賛否両論があります。
プールの事件に関していえば,例えば,自動で異常を感知して給水をストップする装置を付けるとか,複数の人が確認する態勢を作る等の対策を取っていれば防げたかもしれません。
個人的な感想としては,多忙な教師に責任を取らせるのは少しかわいそうな気がします。
先月(11月)末,フランスの司法当局が子どもをフランス人の父親から引き離したとされる日本人の妻に対して親による誘拐などの容疑で国際逮捕状を発行したというニュースがありました。
ヴィンセント・フィショさんというフランス人の男性がフランスの司法当局に告訴していたそうです(告訴は2019年)。
報道だけでは詳しい内容はわかりませんが,ヴィンセントさんは,3年前に日本人の妻が2人の子どもを連れて無断で家を出て行ったと訴えているようで,逮捕状の容疑としては,「未成年者拉致の罪」と「未成年者を危険にさらした罪」とのことです。
ヴィンセントさんは東京オリンピックの開催期間に合わせて国立競技場前で3週間ハンガーストライキを行ったとのことで,それが注目されてフランスの司法当局を動かしたのではないかと言われています。
親による子どもの連れ去りで国際逮捕状が出ることはときどきありますが,多くは,親子が外国で生活していたところ,母親が子どもを連れて他の国(母親の国籍国など)に移住したようなケースです。
しかし,今回のケースは,元々,親子が日本で生活していたところ,母親が子どもを連れて日本内で引っ越したケースについて国際逮捕状が発行されたので極めて異例です。
ヴィンセントさんがハンガーストライキを行ったときは,日本のマスコミはほとんど取り上げなかったようですが,今回の国際逮捕状発行のニュースはかなり反響が大きいみたいです。
反響が大きいことの背景には日本と欧米の法律の違いがあると思います。
欧米では夫婦が離婚しても「共同親権」といって父親も母親も子供の親権者であり続けます。
この「共同親権」が背景にあるため(他の見解もありますが私はこのように考えております。),欧米の場合,夫婦が離婚した場合に母親が子供を引き取ったとしても,行政機関や民間施設等による支援が充実していることもあって,父親と子供との面会は比較的スムーズに行われます。
また,母親が父親に無断で引っ越したり,正当な理由なく面会を拒絶したりすると厳しい罰則があります(国や州によって異なりますが)。
その延長線上として,離婚前の別居状態の場合でも,親と子供との面会は基本的に保証されており(児童虐待等を除く),一方配偶者が他方配偶者に無断で子供を連れて家を出ると誘拐の罪に問われたりします。
これに対して,日本では離婚した場合に「単独親権」といって,どちらか一方の親だけが親権者となります。
そのため,親権者でない親が軽く扱われる傾向にあるように思います。
実際,日本では,親権者となった親が子供を引き取った後,他方の親に一切子供を会わせないケースが少なくありません。
そして,日本では,離婚前の別居状態の場合でも,離婚後において多くの場合に母親が親権者になるという背景もあり,母親が父親に無断で子供を連れて家を出ることについて問題視されない傾向にあります。
今回のニュースは,このような日本の現状に問題を投げかけたといえます。
ファスト映画を動画投稿サイトで公開した著作権法違反罪で男女3人が刑事裁判で有罪判決になりました。
ファスト映画というのは,1本の映画を10分から15分くらいにまとめてナレーションを付けたりして筋書きを紹介していく動画のことです。昨年(令和2年)の春頃から増えてきているそうです。
今回,刑事裁判になったケースは,著作権者に無断で映像を利用し,かつ,編集もしており,著作権法違反は明らかです。3人の被告人も当初より起訴事実を認めていました。
3人の被告人が有罪なのは明らかですが,今回は視聴者側がどうなるのかについて勉強したいと思います。
そのためには,著作権法の改正経緯を見ていく必要があります。
著作権者に無断で映画などの著作物をアップロードするのは,ずっと以前から違法です。
これに対してダウンロードが違法になったのは比較的最近です。
平成22年に,初めて「違法にアップロードされた音楽や映画を違法にアップロードされたものであることと知りながらダウンロードをすること」が違法になりました。
しかし,このときはまだ罰則がありませんでした。
平成24年の著作権法の改正で刑事罰が規定されました。この時点でダウンロードが単なる「違法」から「犯罪」になりました。
そして,今年(令和3年)1月1日に施行された改正法では,さらにダウンロードが禁止される範囲が広まりました。
これまでは,禁止される範囲が音楽や映像のダウンロードに限られていたのですが,改正法では全ての著作物が対象になりました(漫画なども含まれるようになりました。)。
このように,徐々にダウンロードが違法になる範囲が広がってきています。
もっとも,現時点ではストリーミング再生は違法ではないということになっています。
しかし,個人的には,いずれストリーミングも違法になるだろうと思っています。
なぜかというと,結局のところ,視聴する人がいる限り違法アップロードはなくならないので,本当に著作権者の利益を守ろうと思えば,「ストリーミングは合法」という現状のままでいいとは思えないからです。