民事訴訟の請求額

今回は,民事訴訟の請求額について書きたいと思います。

 

 

よく,ニュースなどで,「○○円を請求した裁判で○○円の支払いを命じる判決が出ました」というのを見かけませんか。

 

 

だいたい,請求額よりも判決の金額のほうが低いですよね。

 

 

請求額は何を基準に決めているのでしょうか。

 

 

実は,請求額は,一応の理由があれば幾らでもオーケーです。

 

 

例えば,ある人がある人を殴ってケガをさせたとします。

話し合いで解決すればそれでいいのですが,話し合いで解決しなくて,被害者の人が民事訴訟を起こすとします。

 

 

請求額はどうやって決めるのでしょうか。

 

 

基本的に,積み上げ方式です。

 

 

ケガをしたので病院に行って治療費がかかりました。通院の交通費がかかりました。それらを積み上げていきます。

殴られたときにメガネが壊れたのであればメガネ代も積み上げます。

 

 

そして,ケガをさせられた場合には慰謝料も請求できます。

この慰謝料が一つのポイントです。

 

 

治療費や交通費は領収書などで決まります。実際にかかったお金より多く請求するのは一応の理由すらありません。

 

 

ただし,慰謝料は精神的な損害を金銭的に評価するものです。

「私はものすごく傷ついた。ものすごく苦しんだ。私の苦しみを金銭的に評価すれば1億円だ」と言って1億円を請求することも可能です。

一応の理由といえるからです。本人としてはそれくらいの感覚だというのが一応の理由です。

 

 

浮気の慰謝料の場合でも1億円請求することは制度上可能です。

 

 

そして,民事訴訟の重要なルールとして,「請求額以上の判決額は出ない」というルールがあります。難しい言葉ですが「処分権主義」という民事訴訟の大原則です。

 

 

そうしますと,請求額は大きいほうがいいと思いませんか。

 

 

なので,たいていの場合,多めに請求するのです。

 

 

じゃあ,「僕は10億円請求したい」というのもありでしょうか。

あり得ないことはないのですが,収入印紙代の問題があります。

民事訴訟を提起する場合,請求額に応じて訴状に収入印紙を貼らないといけません。

 

 

この額は法律で決められており,例えば,1000万円を請求する場合,収入印紙代は5万円です。1億円を請求する場合,32万円です。10億円を請求する場合,302万円です。

 

 

ですから,認められるはずがないような金額を請求するのはもったいないのです。

 

 

特に,名誉毀損の裁判の場合,請求額と認められる額が大きくかけ離れる場合が多いような気がします。

名誉毀損の場合,「自分の信用が低下した。自分の信用の価値はこれくらいだ。」といって結構大きい額を請求するのですが,残念ながら裁判所が認める額は本人が思っているよりかなり少ないんですね。

 

 

判決では,過去の裁判例なども参考にしつつ,他の事案と不公平にならないように金額を決めます。同じような事案なのに,A裁判官は5000万円,B裁判官は5万円,では不公平ですよね。

 

 

ですから,無理矢理大きな額を請求しても認められる金額には影響しません。