なぜ親の面倒を看ても相続分は増えないのか

相続の法律相談で多いのが,「親の面倒をずっと看てきたのに,相続分は多くならないのですか?」という質問です。

 

 

いわゆる「寄与分」の話です。

 

 

今回は,寄与分に関する,素朴で,かつ,根本的な問題を深く掘り下げてみたいと思います。

 

 

寄与分とは,簡潔に言うと,相続人が被相続人の財産の増加に貢献した場合に,多めに遺産をもらえるという制度です。

 

 

そして,「親の面倒を看ただけでは財産の増加に繋がらないので寄与分は認めらません」という話は,このブログでも何度か紹介しました。

 

 

今回は,その理由について根本的に考えてみたいと思います。

 

 

そもそも,「親の面倒を看たから遺産を多くもらえる」という期待は正当なものでしょうか?

 

 

ここに答えがあります。

 

 

今の日本で,「私は親の遺産がたくさん欲しいから,一生懸命,親の面倒を看ました!」と堂々と言う人は果たして何人いるでしょうか?

 

 

そう多くはいないのではないでしょうか。

 

 

つまり,現在の日本の文化では,「遺産を多くもらうために親の面倒を看る」という価値観は否定的なのです。

 

 

法律は社会を映す鏡です。社会問題が発生すると法律は改正されます。

 

 

たとえば,飲酒運転による事故が社会問題になったときには,飲酒運転が厳罰化されました。

また,チケットの転売が問題になったことから,最近,チケット不正転売禁止法が成立しました。

 

 

このように,社会の中で「こういうことは問題ではないか!」という声が大きくなると法律が改正されたり新しい法律が制定されたりします。

 

 

話を戻しますと,今の日本社会において,「遺産を多くもらうために親の面倒を看る」という価値観は否定的です。

 

 

ですから,法律が正面から「親の面倒を看た人はたくさん遺産がもらえます」ということを規定するわけにはいかないのです。

 

 

現時点の法律において「寄与分」が認められるためには,被相続人の財産を増加または維持したことに「特別の貢献」をした場合でなければなりません。

 

 

もっとも,これまで「寄与分」の申立は法定相続人しかできなかったのですが,近年行われた相続法改正で,法定相続人以外の人でも「特別の寄与」をした親族は寄与に応じた額の金銭の支払いを請求できることになりました。

 

 

この点は,まさに,「法定相続人しか請求できないのはおかしい!」という社会の声を受けて改正された部分です。

 

 

ただし,請求できる場合は,やはり,被相続人の財産の増加または維持に「特別の寄与」をした場合に限られますのでご注意ください。