相続法改正Q&A


Q 民法改正で自筆証書遺言制度が改正されたと聞きましたが,どのような改正ですか?

 

A まず,以前は,自筆証書遺言は,文字どおり自筆(手書き)する必要があったのですが,本文だけでなく,日付も署名も財産目録も全て自筆する必要がありました(旧民法968条1項)。

特に財産の多い方にとっては財産目録を手書きするのはかなり大変なことでした。

 改正後は,財産目録の部分については自筆しなくてもよくなりました。例えばパソコンなどで作成してもOKです(民法968条2項)。
ただし,パソコンなどで作成した財産目録には全てのページに自署と押印が必要です。

 次に,自筆証書遺言についての保管制度ができました。

 これまでは特に保管制度はなく,自筆証書遺言については,自宅で保管したり知人に預けたりしていました。

 改正法では,法務局において遺言書を保管する制度が創設されました。この部分は民法ではなく,「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下,「遺言書保管法」といいます。)という別の法律で定めました。

 遺言書保管法によると,遺言者は,遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対して,遺言の保管申請を行うことができます(遺言書保管法4条3項)。

 さらに,遺言書保管法の手続によって保管された自筆証書遺言については,検認手続をする必要がなくなりました(遺言書保管法11条)。

 

 

Q 民法改正で,夫婦間の居住用不動産の贈与に関する規定が新設されたと聞きましたが,どのような制度でしょうか?

 

A 改正前は,「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」を受けた場合,それを「特別受益」として扱い,相続分を算定するときに考慮することになっていました(旧民法903条1項)。

 つまり,簡単にいうと,配偶者が生前に居住用不動産の贈与を受けていた場合,遺産分割で取得する遺産は少なくなっていました。

 「特別受益」の制度は,生前贈与は遺産分けの「先渡し」であるという考え方が背景にあります。

 遺産を生前に先にもらっているのだから,死後の遺産分けは少なくてもよいという考え方です。

 しかし,実際には,居住用不動産の生前贈与は,配偶者の生活保障のために行われている場合が多いと思われます。

 そして,その旨の意思表示をしていれば,旧法においても,「特別受益の持戻し免除の意思表示」(民法903条3項)となり,死後の遺産分けにおいて,少なくされることはありませんでした。

 もっとも,このような意思表示をする人は少ないため,「持戻し免除の意思表示」が認定されることは稀でした。

 そこで,改正法では,一定の条件を満たす場合(婚姻期間が20年以上で居住用不動産の贈与),配偶者への贈与は,「持ち戻し免除の意思表示」が推定されることにしたのです(民法903条4項)。

 その結果,配偶者は,居住用不動産をもらったことを前提として,被相続人死亡時に残っている遺産について,法定相続分に従って取得することができます。

 ただし,本規定は,被相続人の意思表示の推定規定であるため,被相続人が反対の意思表示をしていた場合には適用されません。

 

 

Q 民法改正で新設された「預貯金の仮払い制度」とはどのような制度ですか?

 

A 従来は,遺産分割協議が完了する前に預貯金の払戻しを受けるには,相続人全員の合意が必要でした。

 改正民法では,遺産分割協議が完了する前でも,相続人が単独で預貯金の払戻しができる制度を新設しました(改正民法909条の2)。新しい制度によると,各相続人が単独で,金融機関に対して,「相続開始時の預貯金の額×1/3×当該相続人の法定相続分(ただし,金融機関ごとの上限を150万円とする)」の払戻しを請求できます。

 

 

Q 今回の民法の改正で、遺産分割前に相続人の1人が遺産を取り込んだ場合でもその遺産を遺産分割の対象とすることが可能になったと聞いたのですが本当ですか?

 

A 従来でも、相続人全員が遺産分割の対象とすることに同意した場合には、運用上、遺産分割の対象として扱ってきました。しかし、通常、遺産を取り込んだ相続人が同意することはないため、不公平であるとの指摘がありました。

改正民法では、遺産を取り込んだ相続人の同意がなくても、その他の相続人全員の同意があれば、取り込んだ遺産も遺産分割の対象とすることができるようになりました(改正民法906条の2)。

ただし、上記の規定で遺産分割の対象とすることができるのは、相続開始後に処分した遺産に限られます。相続開始前(被相続人の生前)に取り込んだ財産については、従来どおり、不当利得返還請求等を行う必要があります。

 

 

Q 民法の改正で、遺留分減殺請求権の効力が変更されたと聞きましたが、どのように変更されたのですか?

 

A 従来は、遺留分減殺請求権を行使した場合、物権的効果が生じるとされていました。そのため、例えば、遺留分割合4分の1を侵害された相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合、遺産の中に不動産が存在すると、不動産の共有持分4分の1を取得する効力が生じました。

しかし、このような物権的効果では相続人間で不動産の共有状態が生じるため、紛争が長期化するなどの問題が指摘されていました。

そのため、改正民法では、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害している相続人等に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることにしました。この改正によって、不動産の共有の問題は生じなくなり、遺留分侵害の問題は単に金銭債権の問題になりました。

 

 

Q 民法の改正で、相続人以外の者の貢献を考慮する制度ができそうですが、どのような制度ですか?

 

A 旧法では、寄与分は相続人にのみ認められる制度であったため、相続人の配偶者など相続人以外の者が被相続人の遺産の形成や維持に貢献しても、遺産の分配を受けることはできませんでした。

改正民法では、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払いを請求できることになりました(改正民法1050条)。