負担付相続させる遺言の取消しが認められなかった事例

今回は、「負担付相続させる遺言の取消しが認められなかった事例」(仙台高裁令和2年6月11日決定)について解説します。

 

「負担付相続させる遺言」とはあまり聞き慣れない言葉ですが、「負担付遺贈」と同様のものと思ってください。

 

「負担付遺贈」(民法1002条)とは、遺言者の財産を遺贈する代わりに、遺贈を受ける人(受遺者)に何らかの義務を負担させる遺言のことです。


例えば、子どもに財産を遺贈する代わりに配偶者の面倒を見てもらうなどの義務(負担)を負わせるという遺言です。

 

この場合、たいてい、ある相続人に義務を負わせる代わりに他の相続人よりも多くの遺産を相続させる形をとっています。


そのため、義務を負った相続人がきちんと義務を果たしていない場合(義務を果たさず多くの遺産をもらっているので)、不公平感が否めません。

 

そこで、民法は、このような不公平を解消するため負担付遺贈の取消しについて次のような規定を設けています。

 

「負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行を催告することができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈にかかる遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。」(民法1027条)

 

今回紹介する裁判例は、遺言者が、一切の財産を長男に相続させるとした上で、その負担として、長男は二男の生活を援助するものとする、という内容の遺言がなされたケースです。

 

認定された事実によると、長男は、遺言者が死亡した後、二男に対して2か月間のみ月額3万円を送金したが、その後送金しなくなったとのことです。

 

この事案で仙台高裁は、遺言の内容が抽象的であり解釈が容易ではないこと、遺言者は二男が一度に多額の現金を取得した場合には浪費することを心配していたと推認されること等を理由に、遺言の取消しを認めませんでした。

 

もっとも、高裁は遺言の取消しは認めなかったものの、遺言書の解釈として、二男に対して少なくとも月額3万円の経済的援助をすることを法律上の義務として長男に負担させたものと解すべきであると判示しています。

 

高裁は、遺言を取り消してしまうと遺言者の意思に反することになってしまう(二男が一度に多額の現金を取得することになってしまう)ことを避けつつ、二男が月額3万円の援助を確保できるように配慮したものと思われます。