Q 特別受益とは何ですか?
A 特別受益とは,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受けたり,生前贈与を受けたりした者がいる場合に,相続人間の公平を図る制度です。
具体的には,結婚の際の持参金,住宅購入資金,高額な教育費,事業の開業費などをもらっていた場合に,計算上もらった額を相続財産に含めて相続分を算定します。
その結果,特別受益を受けていた相続人が遺産から受け取る相続分は他の相続人に比べて少なくなります。
Q 生命保険金は特別受益になりますか?
A まず,生命保険金は遺産には含まれません。生命保険金が遺産に含まれないとすると,特定の相続人が多く生命保険をもらう場合には,各相続人間で受け取る金銭について差がでてきます。そのため,生命保険金は特別受益ではないかという問題が出てきます。
この点,実務では,原則として生命保険金は特別受益として扱われません。
もっとも,相続人間の不公平が著しい場合には,特別受益としての考慮する場合があります。具体的には「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には民法903条の「類推適用」により「特別受益に準じて持戻しの対象となる」とされています(最高裁平成16年10月29日判決)。
そして,不公平が著しいかどうかについては,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである」(上記判例)とされています。
Q 法定相続人ではない孫への贈与は特別受益になりますか?
A 原則として特別受益に該当しません。なぜなら、特別受益は「共同相続人」に対して、生計の資本として贈与を行う等した場合に認められるものであり(民法903条1項)、孫は相続人ではないからです。もっとも、例外として、孫への贈与が実質的には親(被相続人から見て子)に対する贈与であるとして、特別受益に該当すると判断した審判例があります(神戸家裁尼崎支部昭和47年12月28日審判)。
Q 亡くなった父名義の土地の上に、父の生前から兄が建物を建てて長年住んでいます。兄は地代を父に全く支払っていませんでした。兄は地代相当額の利益を得ているはずなので、地代相当額が特別受益にならないでしょうか?
A 地代相当額は特別受益には該当しません。ご質問のケースでは、亡お父様とお兄様との間で土地の使用貸借契約が成立していたと考えられます。その場合、使用貸借契約締結時に、お父様よりお兄様に対して使用借権の贈与が行われたと解されることになり、この使用借権の贈与自体が特別受益に該当します。そして、地代相当額については、使用借権の価格の中に織り込まれていると考えられるため、使用借権の贈与とは別に地代相当額が特別受益に該当することにはなりません。