平成30年相続法改正で新設された配偶者居住権について考察してみました。
配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、亡くなるまで(または一定の期間)無償で居住することができる権利です(民法1028条)。
まず、配偶者所有権の成立要件をみてみましょう。少し複雑です(民法1028条1項)。
以下の①~③を全て満たす必要があります。
①配偶者が相続開始時に被相続人の所有する建物に居住していたこと
②相続開始時に被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していないこと
③以下のいずれかに該当すること
(ア)遺産の分割により配偶者居住権を取得するものとされたこと(民法1028条1項1号)
(イ)配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと(民法1028条1項2号)
(ウ)配偶者居住権が死因贈与の目的とされたこと(民法554条)
上記の③(ア)については、遺産分割協議又は調停で共同相続人全員が配偶者居住権の取得について合意した場合か、遺産分割審判で配偶者居住権が認められた場合ということになります。
そして、遺産分割審判において配偶者居住権が認められるための要件は、
ⅰ)共同相続人全員が配偶者居住権の取得に合意しているとき
又は
ⅱ) 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有権の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき
となっています(民法1029条)。
配偶者居住権の存続期間は、原則、配偶者の終身であり(民法1030条本文)、例外として終身ではない存続期間を定めることも可能です(民法1030条但書)。
上記を前提に、配偶者居住権の意義を考察してみます。
配偶者居住権が制定された理由は、いうまでもなく、残された配偶者が長年住み慣れた家を離れることなく居住し続けることを可能とするためです。
もし、仲の良い家族であれば、遺産分割において、仮に子どもが自宅(実家)を相続することになったとしても、配偶者(子からみれば親)が自宅に無償で住み続けることを許すでしょう。
決して「所有権」という権利を振り回して親を追い出すようなことはしないでしょう。
そうであれば、わざわざ「配偶者居住権」などという権利を設定しなくても問題はありません。
他方で、仲の悪い家族であれば、自宅(実家)を相続することになる子どもが配偶者(親)を追い出そうとするかも知れません。
そのようなときこそ配偶者居住権の出番なのですが、前記の成立要件のところでみたように、基本的に「共同相続人全員が合意」しなければ配偶者居住権は成立しません。親を追い出そうと企んでいる子どもが「合意」するとは思えません。
例外的に審判で配偶者居住権が成立する場合もありますが、その要件は前記のとおり「配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有権の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」ですので、かなり厳格です。
配偶者居住権の制度はまだ始まって間がないので、裁判所がどのような運用を行うかは分かりませんが、「生活を維持するために特に必要」な場合というのはあまり想定できないのではないでしょうか。
また、(家族の仲が悪い場合に)遺言において配偶者居住権を設定することは一応有効です。
しかし、子どもが親を追い出すことが心配なのであれば、子どもに所有権を相続させつつ、その負担として配偶者を無償で居住させることを定めておけば(負担付遺贈)、配偶者居住権を設定しなくても配偶者は自宅での居住を続けることができます。
このように考えると、平成30年相続法改正の目玉として創設された配偶者居住権ですが、それほど大きな意義があるとは正直思えません。