先日の法律相談で、「先日、父が亡くなりました。父は兄の職場の身元保証人になっているのですが、身元保証人の責任を背負わないためには相続放棄をしたほうがいいのでしょうか。」という相談を受けました。
そこで、今回は、身元保証人の地位(責任)を相続人が承継するかについて書いてみたいと思います。
身元保証とは、ある人が会社に就職する際に、将来、その人が不法行為を行ったりして会社に損害をかけた場合に発生する損害賠償責任を保証する契約です。
身元保証契約は、責任が生じる期間や損害賠償の金額が不明確で抽象的であり、場合によっては莫大な責任が生じうるという特徴があります。
そのため、身元保証人を保護することを目的として、昭和8年に「身元保証ニ関スル法律」(身元保証法。古い法律なのでカタカナが使われています。)が制定されました。
身元保証法では、身元保証契約の期間制限(原則5年。ただし更新は可能。)や裁判所が身元保証人の損害賠償の額を決めるときには様々な事情を考慮できること(それにより身元保証人の責任を限定することが可能)などが定められています。
しかし、身元保証法には身元保証人の地位(責任)が相続されるか否かについての規定はありません。
法律に規定がない場合、法律の解釈や裁判所の判例が重要になってきます。
まず、民法の相続の規定を見てみますと、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と規定されています(民法896条)。
保証債務は本来、上記の「一切の」「義務」に含まれますので、身元保証債務が「一身に専属したもの」といえるかどうかの解釈の問題になります。
この点、判例では、身元保証債務は保証人の責任の及ぶ範囲が広範であり、被用者と保証人の間の信頼関係を基礎とするものであって専属的性質を有しているとして、特別の事情がない限り身元保証人の死亡によって消滅し、相続人によって承継されないとされています(大審院昭和2年7月4日判決、大審院昭和18年9月10日判決)。
もっとも、従業員が実際に会社に損害を与えて損害賠償義務が発生した後に身元保証人が亡くなった場合には、身元保証人の相続人は損害賠償義務を相続します(大審院昭和10年11月29日判決)。
なぜなら、この場合、身元保証人は具体的な損害賠償義務としての金銭債務を負っており、それは「金額が不明確な抽象的な債務」ではなく、通常の金銭債務と異ならないからです。