相続案件を扱っていると、しばしば、「被相続人の生前に生活費を援助するなどして被相続人に対する扶養料を立て替えたので、その一部を他の相続人に請求したい。」という相談を受けます。
まず、扶養義務者が複数いる場合に、1人の扶養義務者が扶養権利者(「要扶養者」ともいいます。)のために支出した扶養料の一部を他の扶養義務者に求償できるかという問題があります。
この点は一般に過去の扶養料の求償は可能であると解されており、その旨を明言する高裁決定があります(東京高裁昭和61年9月10日決定)。
また、後述の最高裁判決も求償が可能であることを前提とした判示をしています。
次に問題となるのは、過去の扶養料の求償を行う場合に民事裁判所で行うのか家庭裁判所で行うのかという点です。
この点について、最高裁は「民法878条・879条によれば、扶養義務者が複数である場合に各人の扶養義務の分担の割合は、協議が整わないかぎり、家庭判所が審判によって定めるべきである。扶養義務者の一人のみが扶養権利者を扶養してきた場合に、過去の扶養料を他の扶養義務者に求償する場合においても同様であって、各自の分但額は、協議が整わないかぎり、家庭裁判所が、各自の資力その他一切の事情を考慮して審判で決定すべきであって、 通常裁判所が判決手続で判定すべきではないと解するのが相当である。」と述べています(最高裁昭和42年2月17日判決)。
したがって、過去の扶養料の一部を他の扶養義務者に対して請求する場合、民事訴訟ではなく家庭裁判所において調停又は審判を行う必要があります(もちろん、当事者間で合意が形成できれば裁判所に行く必要はありません。)。
そして、扶養権利者(要扶養者)が死亡している場合でも上記最高裁判決の論理は同じであると判示した裁判例があります(東京地裁平成6年1月17日判決)。
これらの裁判例からすれば、相続人の1人が被相続人を扶養したとして他の扶養義務者である相続人に対して過去の扶養料を請求することは可能であるが、その請求は民事裁判所ではなく家庭裁判所で行う必要があるということになります。