被相続人の土地の上に相続人の建物が存在する場合の土地の評価

例えば、次のような相談があったとします。


「父親が亡くなりました。父親の遺産は一筆の土地と僅かな預金のみです。父の遺産である土地の上には兄名義の建物が建っています。兄は遺産分割で父名義の土地を取得することを希望しており、兄の言い分によると『土地の上に他人名義の建物が建っている場合、土地の市場価格は著しく低いので、俺が土地を取得し、お前(相談者)が預金を取得すれば遺産を公平に分けることになる。』とのことです。どうすればいいでしょうか。」

 

上記の例で果たして「兄」の言い分は正しいのでしょうか。

 

一般に、土地の上に他人名義の建物が建っている場合、土地の市場価格は低いと言われています。

 

その理由は、通常、そのような場合には、土地上に建物所有目的の「土地賃貸借契約」が設定されており、建物所有者が「借地権」を有しているからです。

 

具体的には、借地借家法の規定により、建物所有目的で「土地賃貸借契約」を締結した場合、借地権の存続期間は最低でも30年であり、借地権の存続期間が満了する場合でも、借地権者が契約の更新を請求すれば(建物がある場合には)原則として契約は更新されることになっており、例外的に契約が更新されない場合は極めて限定されています(借地借家法3条、5条、6条等)。

 

そのため、いったん、建物所有目的で「土地賃貸借契約」を締結してしまうと半永久的に土地を返してもらえないという状況が生じます。

 

このように、土地上に借地権を設定すると土地の利用が著しく制限されてしまうために土地所有者の所有権の価値(「底地」といいます。)が大幅に低下するのです。

 

ところが、冒頭の例では父親の土地上に兄が建物を建てているのですが、このような場合、通常、父親は土地を無償で兄に貸しています。


その場合の契約は「土地使用貸借契約」であって「土地賃貸借契約」ではありません。


したがって、兄は「借地権」を有しておらず、父親の土地の利用価値が著しく制約されることはありません。

 

また、冒頭の例では、父(被相続人)名義の土地上に兄名義の建物が建っており、兄が遺産分割で父名義の土地の取得を希望しているとのことですので、兄が希望どおりに遺産分割によって土地を取得すれば、兄は土地の所有者であり、かつ、建物の所有者でもある、という結果になります。

 

そうしますと、兄としては、自分の好きなタイミングで土地と建物をセットで売却することもできますし、建物を取り壊して、更地にして売却したり新しい建物を建設したりすることも自由にできます。


このように、兄が土地を取得した後には土地の利用についての制限はほとんど何もありません。

 

そう考えると、冒頭の例での兄の言い分は正しくないことが分かります。