特別縁故者の判断基準

特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、被相続人と特別の縁故があったことにより一定の財産を取得できる人のことです。

 

特別縁故者の制度趣旨としては次のように言われています。

 

新民法施行に伴い家督相続制度が廃止されたことにより、相続人の範囲が限定され(家督相続の場合、「第二種選定家督相続人」として、親族会が他人の中から家督相続人を決めることが可能でした。)、相続人が不存在となる事例が増えることになりました。

 

日本では遺言書を作成する習慣があまりなかったため、内縁の配偶者や事実上の養子など被相続人と特別の縁故関係がある者がいても、遺言書がなければ全く財産的保護を受けられないということになってしまいます。

 

そこで、遺言書がない場合であっても、そのような人に対して財産を取得させることが被相続人の意思にかなうのではないか、という趣旨から特別縁故者制度が設けられました。

 

特別縁故者の要件としては、①「被相続人と生計を同じくしていた者」、②「被相続人の療養看護に努めた者」、③「その他被相続人と特別の縁故があった者」との3つの類型が挙げられています(民法958条の2第1項)。

 

しかし、具体的な判断は家庭裁判所の裁量によって決められることになります。

 

上記①の類型では、例えば、30年以上にわたり、事実上の夫婦として内縁関係を結び生活を共にし、被相続人の死後はその葬儀を営み菩提を弔ってきた「内縁の妻」の審判例(東京家審昭和38年10月7日・家月16巻3号123頁)、被相続人を幼時は実父と信じ、成長後は養父として慕い、30年以上共同生活をしてきた「事実上の養子」の審判例(大阪家審昭和40年3月11日・家月17巻4号70頁)などがあります。

 

上記②の類型では、被相続人の老後の相談相手となり、心臓病を患った被相続人の看護を妻とともに尽くした「いとこの子」の審判例(鹿児島家審昭和38年11月2日・家月16巻4号158頁)などがあります。

 

上記③の類型では、被相続人の父親代わりの役目を果たし、相続財産の主要部分をなす不動産の購入について多大な尽力をするなどした「いとこ」の審判例(東京家審昭和60年11月19日・家月38巻6号35頁)、50年以上、師弟として交流し近隣に住み、よき相談相手・生活上の助言者として関わりを持ち、死亡の際には肉親以上の世話を続け死に水を取った「元教え子」の審判例(大阪家審昭和38年12月23日・家月16巻5号176頁)などがあります。

 

家庭裁判所が特別縁故者と認める判断基準としては、「民法958条の3は、特別縁故者の資格及び範囲を例示的に掲げたにとどまり、その間の順位に優劣はなく、家庭裁判所は、被相続人の意思を忖度、尊重し、被相続人と当該縁故者の自然的血縁関係の有無、法的血族関係に準ずる内縁関係の有無、生前における交際の程度、被相続人が精神的物質的に庇護恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度、その他諸般の事情を斟酌して分の許否及びその程度を決すべきである」(大阪高決昭和44年12月24日・判タ255号317頁)と判示した裁判例が参考になります。

 

なお、特別縁故者に関しては、「死後縁故が認められるか」という問題があります。

 

死後縁故とは、被相続人の生前に特別の縁故関係はなかったが、死後において、葬儀や祭祀を執り行い、供養を継続したり、相続財産を管理するなどした者を特別縁故者と認めることができるかという問題です。

 

この点について、審判例は肯定例と否定例がありますが、現在の実務はおおむね否定説に立っており、学説もほぼ否定説に立っています。