なぜ使途不明金は家庭裁判所で判断できないのか

遺産分割で相続人間において争いがあるときに、使途不明金の話が出てくることがよくあります。

 

例えば、「兄が亡母親の通帳や印鑑を管理していたので、母親の生前に兄は母親に無断でお金を引き出していたと思う。使い途がはっきりしない出金は納得いかないので、遺産分割をする際に返してほしい。」というような相談です。

 

このような場合、話し合いで解決できるのであれば、「遺産分割」と「使途不明金」を同時に解決することはもちろん問題ありません。


ただし、弁護士のところまで相談に来ているということは、相続人間で見解の相違があるということです。話し合いを行っても、相手から「使途不明金など存在しないので、お金を返すつもりはない。」と言われるケースがほとんどです。

 

したがって、このようなケースでは、おおむね遺産分割調停を申し立てることになりますが(使途不明金について合意に至らないのに遺産分割のみが話し合いで解決することはまずありません。)、遺産分割調停においては、相手が「使途不明金についてもこの調停で同時に解決したい。」との意思を表示しない限り、遺産分割調停で使途不明金の話を進めることはできません。

 

そして、たいていの場合、相手は「使途不明金など存在しない。」という姿勢ですので、「使途不明金についても調停で同時に解決したい。」と言うはずがありません。


そうなると、使途不明金については家庭裁判所では解決できず、民事訴訟(地方裁判所または簡易裁判所)で解決する必要があります。

 

では、どうして使途不明金については家庭裁判所で解決できず、民事訴訟を提起する必要があるのでしょうか。
この話をするためには、「そもそも家庭裁判所は何のためにあるのか」から説明しなければなりません。

 

本来、裁判は公開の法廷で行わなければなりません(日本国憲法82条)。その理由は、密室で裁判が行われると国民が裁判を監視することができず、公正な裁判を保障することができないからです。


そのため、刑事裁判も民事裁判も公開の法廷で行われるのが原則です。

 

しかし、家族の問題についてまで公開の法廷で裁判しないといけないというのはプライバシー保護の観点から望ましくありません。
そのため、家族間や親族間の紛争は非公開の手続きを中心とする家庭裁判所で解決することになっているのです(その他、少年事件も家庭裁判所で扱われます。)。

 

上記を前提にして考えると、遺産分割というのは被相続人の遺産を相続人間でどのようにして振り分けるかという親族間の調整の問題ですから(権利の有無が問題なのではない。)家庭裁判所で解決するにふさわしいテーマです。

 

これに対して、使途不明金の問題は単なる調整の問題ではなく、「不当利得」または「不法行為」によって他人の財産を領得(侵害)したか否かという権利義務に関する紛争です(不当利得が存在すれば不当利得返還請求権という権利が存在することになり、不法行為が存在すれば損害賠償請求権という権利が存在することになります。)。


このような権利義務に関する紛争は(たとえ親族間であっても)原則に戻って公開法廷で行う必要があり、家庭裁判所では扱えないことになっています。

このような理由から、使途不明金は民事訴訟で解決する必要があるのです。