葬儀費用は喪主が負担するのか

遺産分割の際に、葬儀費用を誰が負担するかで揉めることがよくあります。


一般的には、葬儀は被相続人が亡くなられて数日後に執り行われるので、とりあえずは誰かが葬儀費用を払います。


したがって、払った後で揉めることになるのですが、被相続人の財産(預貯金やタンス預金など)から払う場合と相続人の一人(例えば喪主である相続人)が負担する場合があります。

 

いずれの場合でも揉めることはあり得ます。

 

実は、「葬儀費用を誰が払うか」については確定した最高裁判決がありません(だからこそ揉めるという面もあります)。


下級審の裁判例はどうなっているかというと、判断は分かれています。


大きく分けると、喪主が負担すべきであるという見解(いわゆる「喪主負担説」)と相続人全員で負担すべきという見解(「共同相続人負担説」または「相続財産負担説」)に分かれます。

 

前者の裁判例としては、東京地裁昭和61年1月28日判決、東京地裁平成28年11月8日判決(原則として喪主が負担すべきとしながら、当該事案については相続人らの黙示の承諾があったとして、結論としては相続人全員に負担させている。)、東京地裁平成27年12月3日判決、名古屋高裁平成24年3月29日判決、東京地裁平成19年7月27日判決、東京地裁平成18年9月22日判決、東京地裁平成6年1月17日判決(明確に喪主負担説を採用していないが、結論として喪主に負担させている。)、神戸家裁平成11年4月30日審判、大阪高裁昭和49年9月17日決定等があります。

 

後者の例としては、東京地裁平成20年4月25日判決、東京地裁平成17年7月20日判決、東京地裁昭和59年7月12日判決、長崎家裁昭和51年12月23日審判、盛岡家裁昭和42年4月12日審判、福岡高裁昭和40年5月6日決定、高松高裁昭和38年3月15日決定、大阪家裁堺支部昭和35年8月31日審判、東京高裁昭和30年9月5日決定等があります。

 

このように見てみると、古い裁判例では相続人全員で負担すべきとの判断が多く、新しい裁判例では喪主が負担すべきとの判断が増えている感があります。

 

もっとも、それぞれの裁判例は個々の事情に基づいて判断していますし、最高裁判所の判断は未だにありませんので、裁判所が喪主負担説で固まっていると決めつるのは時期尚早かと思います。